業界トピックス

懲戒請求を受けてしまった弁護士は転職できるのか

目次
  • 1.日弁連発行『自由と正義』の人気コーナー

  • 2.弁護士への懲戒請求の濫用問題

  • 3.懲戒請求された弁護士は登録換えができない

  • 4.懲戒手続中の転職

  • 5.懲戒処分を受けた後の転職

  • 記事提供ライター

  • サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

1.日弁連発行『自由と正義』の人気コーナー

日本の弁護士会には、弁護士自治という完全な自治権が認められています。その中核をなすのが懲戒制度です。日本弁護士連合会の機関雑誌である「自由と正義」には、巻末に懲戒処分欄があり、一番の人気コーナーだと言われています。実際に、筆者が参加する弁護士の飲み会でも、「今月の自由と正義にこんな処分の理由が乗っていた」とよく盛り上がっているので、人気コーナーの看板に偽りはないはずです。

懲戒制度の内容や仕組みは日本弁護士連合会(『懲戒制度(※1)』)も解説していますので、ここでは転職を考えている弁護士にとっての懲戒制度を考えます。

2.弁護士への懲戒請求の濫用問題

2007年になされた弁護士資格を持つテレビタレントの発言をきっかけに、懲戒請求が、あの弁護士は気に入らない、などの理由で、濫用的になされるようになってしまったことが、弁護士会内で大きな問題となっています。2007年の同発言の他にも、2018年には、インターネット上で理由のない懲戒請求呼びかけがおこなわれてしまいました。この両年は懲戒請求の数が異常に増えた結果、懲戒請求に対して懲戒処分がなされた割合も、目立って低くなっています(『懲戒請求に対して懲戒処分がなされた割合(※2)』)。そのため、懲戒請求を受けたらどの程度の割合が懲戒処分になるのかは、一概には言えません。

弁護士法第58条第1項は、「何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」としています。そのため、懲戒請求は、本来、「懲戒の事由があると思料するとき」に限ってなすことができるのですが、問題は、同条第2項が「…前項の請求があつたときは、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない。」としていることです。弁護士会は、弁護士法により、理由がないと疑われるものも含めて、全ての懲戒請求に対して、時間をかけて調査を行う負担を強いられています。

濫用的な懲戒請求であっても全てを調査する必要があることから、懲戒請求がなされてから半年以内に結論が出るのはわずか4割程度と、調査を行う弁護士会にも、懲戒請求の対象となってしまった弁護士にも、大きな負担がかかっています(『懲戒事案の調査・審査期間(※3)』)。全件調査は弁護士法上の規律であるため、会則会規と異なり、弁護士会が自力で変更することもできません。

3.懲戒請求された弁護士は登録換えができない

弁護士法第62条第1項は、「懲戒の手続に付された弁護士は、その手続が結了するまで登録換又は登録取消の請求をすることができない。」としています。

弁護士会は、原則として、地方裁判所の管轄区域ごとに設置されるため(弁護士法第32条)、地方裁判所の管轄区域をまたいでの転職をする際には、弁護士会の登録換えが必要です。そのため、懲戒請求をされると、結論が出るまでの間、地方裁判所の管轄区域をまたいでの転職ができなくなってしまいます。

地方裁判所の管轄区域をまたいでの転職を考えている弁護士にとって、懲戒請求を受けてしまうことは、大きなリスクです。元より、弁護士業務は、依頼者が期待する成果を得られなければ依頼者から恨まれますし、依頼者に成果を獲得させれば相手方から恨まれるので、恨まれやすい性質を備えています。そのため、依頼者や相手方からの理由のない懲戒請求は、以前から数多く行われてきました。しかし、テレビタレントの発言により、弁護士法第58条第1項の「何人も」という文言を悪用できる(当事者以外が「懲戒の事由があると思料する」だけの材料を備える場合は、当事者の親族など限定的であるはずです。)ことが知れ渡り、インターネットの普及により、見知らぬ第三者同士が結託して制度を悪用するようになってしまいました。

残念ながら、筆者を含むすべての弁護士が、単に懲戒事由に該当しないだけでなく、依頼者や相手方から逆恨みをされないように丁寧な弁護士業務を心がけていても、第三者からの濫用的な懲戒請求を受けるリスクから逃れることができません。そして、懲戒請求を受けてしまえば、長期間にわたって、登録換えをともなう転職活動ができなくなってしまいます。

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4.懲戒手続中の転職

同じ地方裁判所の管轄区域内で転職をする場合には、登録換えは不要です。そのため、制度上は、懲戒手続中であっても転職は可能ということになります。とはいえ、転職後に懲戒処分が下されてしまうと、弁護士一人だけの問題ではなく、転職先の事務所名も官報および自由と正義に掲載されるので、懲戒手続中の転職は警戒されることが通常です。

もっとも、懲戒請求されたからといって懲戒処分に至るとは限らない上に、転職先も濫用的懲戒請求が問題となっていることを知っているため、どのような懲戒請求を受けているのかをきちんと説明して、懲戒処分に至る可能性はほぼ皆無であると転職先に信用してもらえるならば、懲戒手続中の転職も十分に可能でしょう。

余談ですが、懲戒処分がなされると、官報で速報がなされた4か月後に、自由と正義に詳細が掲載されることとなります。ある被懲戒弁護士は、懲戒処分がなされた直後に法律事務所を移籍したため、官報段階では元の所属事務所名が、自由と正義では転職先の事務所名が記載されていました。転職先としては、既に処分は下ったから自分の事務所名が自由と正義に載ることはないと油断していたかも知れません。

5.懲戒処分を受けた後の転職

懲戒請求を受けて懲戒処分に至ってしまったことがある、という場合、残念ながら、転職への悪影響は避けられません。

詳細は冒頭でご紹介した日本弁護士連合会の説明(『懲戒制度(※4)』)に委ねますが、綱紀委員会にも懲戒委員会にも弁護士以外の有識者が参加しており、懲戒処分が下されるまでには不服申し立ての機会が与えられています。何よりも、対象弁護士自身に、当事者のみが持つ証拠と、法的主張をなす能力があるので、正当な反論があれば、それを手続に出すことが可能です。

懲戒処分を受けてしまった場合には、真摯に懲戒事由と向き合い、口だけの反省ではなく、二度と繰り返さないためにどうするべきかを考え抜いて、転職活動では、それを伝えるべきでしょう。転職先にとっては、過去に懲戒処分を受けた事実自体よりも、今後も懲戒事由を繰り返す可能性が懸念されますので、それを払しょくすることが重要です。また、戒告処分であれば、災難だったと同情してもらえるような処分の理由である場合も多いので、懲戒処分をきっかけに慎重さを身につけることができれば、弁護士としての成長を評価されるかも知れません。

C&Rリーガルエージェンシー社は、2007年の創業以来弁護士の転職を支援しており、その中では、懲戒請求を受けてしまった方、懲戒処分歴のある方も支援してきました。懲戒請求や懲戒処分を受けてしまったからと言って諦める必要はありませんので、転職をお考えの際には、お気軽にご相談ください。

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記事提供ライター

弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

弁護⼠、法務・知財領域に精通したプロフェッショナルエージェンシーです。長きに渡り蓄積した弁護士・法律事務所・企業の法務部門に関する情報や転職のノウハウを提供し、「弁護士や法務専門職を支える一生涯のパートナー」として共に歩んでまいります。
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日本のリーガルを牽引する弁護士、法律事務所/企業法務部の姿、次世代を担う弁護士を徹底取材した『Attorney's MAGAZINE』を発行。
『Attorney's MAGAZINE Online』>

【参照】

※1『懲戒制度』:
 https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/petition/chokai.html
※2『懲戒請求に対して懲戒処分がなされた割合』
 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2022/5-3-9.pdf
※3『懲戒事案の調査・審査期間』
 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/statistics/2022/5-3-11.pdf
※4『懲戒制度』:
 https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/petition/chokai.html

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