業界トピックス

AIの発展による弁護士業務への影響

目次
  • 1.弁護士の仕事がAIに奪われる?

  • 2.そもそもAIとは

  • 3.AI弁護士の登場と退場

  • 4.弁護士の仕事はAIの外にある

  • 5.AI利用の注意点

  • 6.AIは便利なツール

  • 記事提供ライター

  • サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

1.弁護士の仕事がAIに奪われる?

AIの発展によって様々な仕事がAIに取って代わられる、あるいは奪われていくと言われています。弁護士については、高度な専門性があるのでAIに奪われない仕事として例示されることが多いようですが、AIに仕事を奪われることを危惧する弁護士もいます。AIと弁護士業務については国内外で様々な事例が蓄積されてきたので、2023年9月時点での状況をご紹介します。

2.そもそもAIとは

Artificial Intelligenceについて、法的な定義は存在しませんが、一般社団法人人工知能学会は、設立趣意書(https://www.ai-gakkai.or.jp/about/about-us/jsai_teikan/)において「人工知能は大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したものである。」としています。この設立趣意書は1990 年6 月29 日付ですが、筆者は、今も通用するAIの定義であると考えています。

AIの多くは、ニューラルネットワークという人間の脳の神経網を模した数理モデルに基づいており、これには学習という名の反復計算を延々と繰り返すことで精度を高めていくという特徴があります。ニューラルネットワーク自体は第二次世界大戦中から存在していた古い考え方なのですが、反復計算を何万回と繰り返すためにマシンパワーを必要とし、近年になって、ようやく、必要なマシンパワーが現実的なコストで用意できるようになりました。

3.AI弁護士の登場と退場

2023年、アメリカで、AI弁護士が訴訟に登場しようとして失敗しました。AI弁護士とは、法令や裁判例を学習したAIが、本人訴訟の最中に、本人に補聴器のような機材を通じてアドバイスするという装置でした。日本でも普及しはじめたAIによる契約書添削と本質的には何も変わりません。AI弁護士は、訴訟への登場を予告していたのですが、AIが法的なアドバイスをすることは法律違反だという現地弁護士会などからのクレームを受けて断念しています。

AIが法的なアドバイスをすることが禁じられているのは、日本もアメリカも同様です。AIというと、さもSFで登場する人格をもった機械のような響きですが、先のニューラルネットワークについての説明のとおり、人間の脳を模してはいても、本質は計算機に過ぎません。計算機たるAIの人格の主体は、利用者か開発者あるいは運営会社ということになります。そして、AI弁護士においては、運営会社が無資格で弁護士活動を行ったという法的な整理がなされたようです。

日本においても、法務省大臣官房司法法制部が令和 5 年 8 月付「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第 72 条との関係について」(https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf)において、AIを用いた「報酬を得る目的」で「訴訟事件…その他一般の法律事件」または「鑑定…その他の法律事務」についてのサービスは、弁護士に対して提供され、当該弁護士が「自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用するとき」に限って適法になるという見解を示しています。弁護士が責任を取るならばAIを用いても良い、ということです。

弁護士がAIについて責任を負うべき、という考え方に関しては、アメリカ・ニューヨーク州で、弁護士がChatGPTを利用して資料を作成したところ、6件もの実在しない裁判例が引用されてしまい、裁判所から5000ドルの支払いを命じられることになったという事例が参考になります。

4.弁護士の仕事はAIの外にある

AIの最大の特徴は学習です。それは、どのようなデータを学習させるかによって、AIの挙動を支配できるということでもあります。ある出版社が、AIが生成した架空のアイドルの写真集を出版したところ、それが実在する人物と酷似することを指摘され、短期間で販売終了となったという事例がありました。おそらく、AIに、当該実在する人物の写真ばかりを学習させてしまったものと思われます。

実は、この、学習させるデータによってAIの挙動を支配するという構図は、弁護士業務と酷似しています。弁護士は、依頼者に有利になるように事実や証拠を組み立てて裁判所に提出します。裁判官をAIに見立てて、その挙動を支配すべく、学習データを組み立てているとも評価し得るのです。もっとも、裁判官は、AIと異なり、素直に学習データを受け入れるだけでなく、その真偽を見極めるとともに隠されたデータの存在を疑うという、高度な対応をしてきます。弁護士の活動はAI(裁判官)の外にあり、裁判官はAIにはない弁護士(利用者)への疑いを抱けるので、筆者は、現代の枠組みのAIがいくら発展しても、弁護士や裁判官が仕事を奪われることはないと考えています。

5.AI利用の注意点

AIの特徴が学習にあり、インターネットを利用して学習データを集めれば効率的に学習ができるという技術的な理由から、多くのAIサービスはインターネット経由で提供されています。その結果、インターネット上で様々なデマを学習してしまい、それが、アメリカ・ニューヨーク州における、実在しない裁判例の引用という事態を招いた可能性があります。AIの仕組みがわかれば、とてもオンラインのAIを信用しようとは思えないはずです。

また、弁護士がAIを用いる際には、守秘義務にも注意する必要があります。具体的な事件についてAIに意見を求めてしまえば、そのAIが他の利用者に対して、弁護士の質問内容に出てきた事件の詳細を明かしてしまう恐れがあります。

その他にも、AIがインターネット上で学習データを集めることが、著作権侵害となりかねない問題もあります。日本国内のサーバー上にあるAIには、日本の著作権法第30条の4第2号が適用されるので、著作物を学習に用いても情報解析目的なので許容される場合が多いと考えられます。しかし、海外のサーバー上にあるAIを利用する際には、現地の著作権にも注意を向けることが求められます。

6.AIは便利なツール

AIは便利なツールです。実際に、筆者も、英文契約書を読む際には、先ずAIに和訳させて、あやしい日本語が出てきた部分についてのみ、自力で英文を読むことで、業務時間を大幅に削減することができました。契約書添削も同様で、契約書をAIに添削させたものを、さらに弁護士が添削することで、時短ツールとして活用できます。法務省が示したように、弁護士が、自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で、AIを利用すれば、AIは弁護士業務の強力な手助けとなってくれるでしょう。弁護士が、スタンドアローンのAIを購入し、デマに触れさせないように注意しながら事務所内の書籍や事件記録のみを徹底的に学習させることで、頼れる専属アシスタントに育てるという時代も、遠くないように思えます。

記事提供ライター

弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

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弁護⼠、法務・知財領域に精通したプロフェッショナルエージェンシーです。長きに渡り蓄積した弁護士・法律事務所・企業の法務部門に関する情報や転職のノウハウを提供し、「弁護士や法務専門職を支える一生涯のパートナー」として共に歩んでまいります。
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