業界トピックス

現役弁護士が解説!司法試験のデジタル化で何が変わる?

目次
  • 1.2026年から司法試験がデジタル化?

  • 2.弁護士業務とワープロソフト

  • 3.手書きの司法試験

  • 4.採点者の負担大幅軽減

  • 5.課題は専ら運営側にあるか

  • 6.弁護士業界の未来は明るい?

  • 記事提供ライター

  • サイト運営会社:株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社

1.2026年から司法試験がデジタル化?

2023年6月9日、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(※)が閣議決定されました。この中では、「受験者の利便性の向上」、「試験関係者の負担軽減」等を図る観点から、「出願手続等のオンライン化及び受験手数料のキャッシュレス化」とともに、「司法試験及び司法試験予備試験のデジタル化」の実現に向けた取組を進めるとされています。そして、Computer Based Testing(CBT)方式による試験について、2026年に実施する試験からの導入に向け、システムの設計・構築等を進めるとされています。筆者の受験生時代も、司法試験の答案をPCのキーボードを使って作成できたならどんなに楽だろうと思い続けていたので、万感の思いです。今回は、従来の手書きの試験にどのような問題があったのか、司法試験及び司法試験予備試験のデジタル化によって何が期待できるのかを解説します。

2.弁護士業務とワープロソフト

弁護士の業務の中で、かなりの比重を占めるのが書面の作成です。裁判所に提出する訴状や準備書面などの裁判書面はもちろん、契約書や社内規則、書籍やインターネット記事の原稿も書きます。それらは全てPCのワープロソフトで行います。もちろんこのコラムもワープロソフトを用いてキーボード入力で作成しています。

ワープロソフトの一番便利な点は、入力後の編集ができることです。カットアンドペーストで容易に順番を入れ替えて、不足があれば書き足すこともできます。筆者が書面を作成する際には、先ず、主張したいこと、書き落としてはならないことを箇条書きにします。そして、どのような順番で主張していけば説得力のあるストーリーができあがるかを考えて並べ替え、アウトラインを作成します。この段階でのアウトラインは、見出しだけのものと、長い文章が混在しています。アウトラインさえできれば、後は肉付けをしていくだけです。裁判書面を作成する際も、契約書を作成する際も、このようなコラムを執筆する際も、作業手順は変わりません。

3.手書きの司法試験

2023年現在の司法試験及び司法試験予備試験では、手書きで答案を作成する必要があります。手書きの試験にどのような問題があるのかについては、「小話 ~なぜ弁護士は字が汚いのか~」をご参照ください。まさか真面目なコラムで小話を参照することになるとは思いませんでした。

手書きの試験では、弁護士の字は汚くなるし、司法試験考査委員は意味不明な暗号らしきものの解読を強いられるし、それ以前に、書く作業に時間がかかることが問題でした。試験時間の大部分を書く作業に費やすことになる結果、考える力を試されているはずなのに、考えることに割ける時間が短くなり、答案の内容以前に、筆記速度が試される試験になってしまっていました。

書いてしまった答案を編集できないことも問題でした。書く作業に移ってしまうと後戻りができなくなるため、答案構成用紙と呼ばれる白紙を使ってアウトラインを作成し、書き落としてはならない事項をメモしてから、書く作業に移っていました。実務では、書くことが書面作成の第一歩だと言うのに、全く逆の手順です。

書く作業の途中に、あれも書けばよかったこれも書けばよかった、主張の順序を並び替えればより説得力のあるストーリーになった、などと後悔しても後の祭りです。受験生の立場にしてみれば、自分のベストを表現することが許されない受験環境でした。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」にある「受験者の利便性の向上」は、単に手続が簡便になるというだけではなく、書く作業時間を圧縮することで、より考える力が問われるようになり、編集作業が可能となることで、実務家になった後の作業手順で答案を作成できるようになることを意味しています。

4.採点者の負担大幅軽減

「司法試験及び司法試験予備試験のデジタル化」の目的として「試験関係者の負担軽減」も掲げられています。筆者は、司法試験考査委員の方々が、毎年毎年、字が汚すぎたら落とす、と講評しながらも、気合いで受験生が書き残した暗号を解読してくれていることを知っています。試験関係者というのは採点者たる司法試験考査委員のことであり、負担軽減というのは、字が汚すぎても読むという無理を強いられないようになる、ということです。もちろん、これはとても良いことです。

5.課題は専ら運営側にあるか

受験生にとっては手放しで喜ぶべきデジタル化ですが、運営側が乗り越えるべき課題は多数思い浮かびます。何よりもコストが問題です。ノートPCを貸与する形になると思いますが、パンタグラフのキーボードは耐久性に優れるとは言い難いため、受験生の有利不利が出ないような万全の状態のPCを、受験生の人数分だけでなく、予備機まで用意する必要があります。環境設定にも困難が伴います。平等な条件で受験させるため、また、動作を安定させるために、都度初期化して、最小限のソフトのみをインストールした状態にすることはもちろんですが、IMEだけは、司法試験の実用に耐えるように、法律用語を辞書登録しておくべきでしょう。キーボードの配列や文字変換の方法も、決めの問題ですので、早々に決めて発表し、受験生の習熟を促すべきです。どこまで細かな気配りがなされるのか、不安があります。

6.弁護士業界の未来は明るい?

弁護士は書面作成を生業としています。弁護士が文字をタイプする量は、プログラマーすら圧倒すると思います。そんな弁護士の卵に、ペンで文字を手書きさせていたことがおかしいのです。2026年からは、弁護士の卵が、弁護士の実務と同じ手順で答案を作成することが許されます。司法試験は実務家登用試験なのですから、試験が実務に近づければ、受かるべき受験生が受かりやすくなります。それは単純に素晴らしいことです。司法試験及び司法試験予備試験のデジタル化によって、弁護士の字が少しは読みやすくなるとともに、実力のある受験生が合格しやすい環境が整うので、弁護士業界の未来は明るくなると考えています。

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記事提供ライター

弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

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弁護⼠、法務・知財領域に精通したプロフェッショナルエージェンシーです。長きに渡り蓄積した弁護士・法律事務所・企業の法務部門に関する情報や転職のノウハウを提供し、「弁護士や法務専門職を支える一生涯のパートナー」として共に歩んでまいります。
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