業界トピックス
企業内における法務の評価制度の現状と課題
- INDEX
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1.法務に対する評価制度の現状
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2.法務の人事評価制度について、検討すべき今後の課題
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3.解決策として考えられること
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日本の企業では、法務担当者に対してどのような方法で人事評価がおこなわれているかご存知でしょうか?
法務は営業のようにはっきりと数字が出る部門ではないので、各企業ともなかなか適切な評価方法を設定しにくい現状があります。
この記事では企業内における法務に対する評価制度の現状や、検討すべき課題をご紹介してまいります。
1.法務に対する評価制度の現状
まずは実際の法務の現場でどういった人事評価制度が採用されているのか、現状をみてみましょう。
1-1.数値目標がないまま上司が評価
法務部は、営業のような「数値目標」を立てるのが困難な部署です。そこで「どの程度事業内容を理解してコミットできているか」「法改正への対応」「事業立ち上げに対する貢献度」「チームの活動への貢献度」などのざっくりとした指標を設定し、上司が主観的に判断している例が少なくありません。評価される側にとっては「なぜその評価になったのか」納得しにくい状況も生まれています。
1-2.一人法務のケースでは、自分で評価基準を作っている
社内に「法務部」としての組織体制が整っておらず、いわゆる「一人法務」体制の企業があります。こういった企業ではそもそも法務の評価制度が用意されていないため、法務担当の弁護士が自分で評価の指標や基準を作っている例もみられます。
1-3.一定の成果によって評価
法務部門も状況によっては一定の「成果」を基準に設定できる場合があります。
たとえばM&Aなどのプロジェクト案件や個人情報保護法や労働法、民法などの法改正への対応などをおこなった場合、かかった期間や達成度によって評価している企業があります。
また、いかに業務を内製化し、顧問弁護士へ支払う報酬を減らすことができたか、個々の残業時間、残業代を減らし効率的に業務を遂行することができたか、などのコスト面を重視して評価されるケースもみられます。
1-4.目標設定とその達成度によって評価
1年に1度目標設定をおこない、その達成度によって評価をする企業は少なくありません。
たとえば「(現場から)依頼を受けたら○日以内に返す」などの具体的な目標を設定し、1年後にMBO面談をおこなってどれだけ達成できたかをお互いに確認します。
ただし法務の場合、前年度と同じようなペースで案件が来るとは限らないので、件数だけで評価するのは難しい上、仕事量が増えると人を増やして分散させることも多いため、数値目標を立てにくい現状もあります。
2.法務の人事評価制度について、検討すべき今後の課題
以上を踏まえ、法務の人事評価制度には、以下のような課題があると考えられます。
2-1.数値化しにくいので主観的な判断に陥りがち
法務部門の仕事は数値化が難しいため、どうしても上司や役員による主観的な評価がおこなわれがちです。しかしそれでは適切に評価できているとは言いがたく、被評価者の不満が高まりますし、場合によっては離職につながるケースもあります。
2-2.「予防法務」の性質上、成果が見えにくい
企業の法務担当の仕事は「トラブル予防」がメインです。現実にトラブルが発生した場合には顧問弁護士などに任せるからです。ところが「予防法務」は成果が非常に見えづらく、法務担当が能力を発揮すればするほど「何事もなく済ませられる」ために「何もしていない」ように見られてしまう矛盾があります。
3.解決策として考えられること
今後、法務部の評価制度をどのように工夫すれば良いのでしょうか?
いろいろな方策が考えられますが、たとえば以下のように経験年数に応じて具体的な評価指標を導入する方法が考えられます。
3-1.経験年数5年未満の若手法務部員の場合
● 一般的な法務知識や英語力を問う
ビジネス法務検定1級・2級、TOEIC、TOEFLの受験など
● 関連法や独禁法、労働法、個人情報保護法、改正民法などの法規の理解を問う
● 契約書のドラフトについて、こなした本数ではなく誤字・脱字はないか、統一性があるかなどの明確に評価できる面をみる
● 議事録作成、勉強会やプレゼンなどによって評価
● 実績ベースの評価
M&A、訴訟や各種プロジェクトにスピーディに対応し、結果を出せたかなど。たとえば、業務改善プロジェクトとして電子契約化を実行し、効率化と生産性の向上を実現できたケースなどでは高く評価します。
● 他部門でのトレーニングや研修会に参加させてアンケートを実施
● 半期ごとに目標設定して達成度を細かく評価
3-2.マネジメントポジションの場合
●コスト面やスピード面で会社に貢献した
たとえばそれまで外部弁護士に丸投げしていたM&AのDD(デューデリジェンス)を社内で対応することでお金と時間を節約できたケースなどです。
●法改正への対応
民法や労働法の改正、GDPRなどについていつまでにどのような対応が必要か、タイムラインを意識しつつ現場へのトレーニングをおこなったなどで評価します。
3-3.評価者側の心構え
法務部の評価者である上司は「言うことをよく聞く部下」「気に入った部下」を主観的に高く評価しがちです。そういった傾向を所与のものと自覚し、なるべくバイアスが入らないように客観的に評価する姿勢が求められます。
法務部の人事評価制度についてはまだまだ未解決の課題も多く、発展途上段階といえるでしょう。今後の試行錯誤と進化を期待していきたいところです。
記事提供ライター
記事提供:法律ライター 元弁護士
京都大学在学中に司法試験に合格、弁護士登録
勤務弁護士を経て法律事務所を設立、経営
現在は弁護士の実務経験を活かし、多数の法律メディア、法律事務所、弁護士などの法律関係者向けのメディアなどで執筆業をおこなう。
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