業界トピックス

若手弁護士に人気の企業法務の実のところ

目次
  • 1.はじめに

  • 2.知的財産

  • 3.国内M&A

  • 4.クロスボーダーM&A

  • 5.企業は町弁(街弁)(マチ弁)をよく使う

  • 6.企業法務は縁の下の力持ち

1.はじめに

企業法務という言葉にキラキラした響きを覚える方は多いようです。企業法務に明確な定義はなく、何をイメージしているかは人それぞれですが、ここでは、企業内弁護士を含む企業の法務部員がおこなう業務と企業が外部の弁護士に依頼する業務を意味するものとします。筆者の企業内弁護士時代の勤務先は、IT企業を母体とする持ち株会社で、グループの管理部門の集約と事業部門会社の売買をおこなっていました。そのため、筆者は、知的財産の管理やM&Aといった企業法務を一通り経験することができました。ここでは、筆者が実際に経験した企業法務の現実を紹介します。

2.知的財産

企業法務と知的財産は異なる分野だとして、法務部とは別に知財部を設けている企業もあります。しかし、筆者は法務部員として知的財産も管理していたので、ここでは企業法務の一部として扱います。

おそらく、知的財産としてイメージされることが多いのは特許権でしょう。しかし、日本国内の企業法務で特許権を扱うことはほぼありません。特許権侵害事件や職務発明対価請求事件は日本全体でも年間100件程度しか発生していないとも聞きます。筆者の勤務先企業が外国のパテントトロールから外国の裁判所で訴えられたことがありましたが、その際には、問題となった特許技術が用いられている部品の供給元が外国法弁護士を手配してくれる契約にしていたので、勤務先独自での対応負担は生じませんでした。

それでは日本国内で知的財産が問題になることは少ないのかというと、そんなことはありません。知的財産の範囲は幅広く、特許権以外にも、商標権、著作権、ノウハウと様々です。そして、企業では、商標権や著作権についての問題が頻繁に生じます。筆者の勤務先企業では、数千円で販売しているPC接続ケーブルの偽物を販売されてしまいました。高級バッグや高級腕時計以外もブランド盗用のターゲットになるのです。また、訴訟沙汰になることは少ないですが、ソフトウェア開発契約では著作権の帰属が一番の関心ごとになります。著作権というと芸術作品のイメージがありますが、実際に問題となることが多いのはプログラムの著作物です。

3.国内M&A

M&Aにおける企業法務の主な作業は、法務デューデリジェンス(法務DD)、契約書の作成及び機関法務、事後処理です。そして、ここで外部の弁護士が活躍する機会は一部だけです。

法務DDでは、相手方においてきちんと意思決定に必要な手続きが踏まれてきたか、主要取引先から不利な取引条件を求められていないか、労働環境に紛争の火種は潜んでいないか、などをチェックしていきます。チェックしたいことは無限にあるのですが、企業にはリスクテイクという発想があります。また、M&Aでは密行性と迅速性が求められます。M&Aの検討中は日常業務が止まるわけでもありません。そこで、法務部員や企業内弁護士は、業界知識や相手方のビジネスモデルへの理解を元に、どこにリスクが潜んでいるかを推測して、優先順位をつけてDDをおこないます。この点が、リスクの最小化を目的としてできる限り幅広くDDをおこなう外部の弁護士との違いです。また、DDは法務だけでなく財務もおこなうので、法務も財務もわかっている人材であれば全体の作業量を削減することが可能です。企業目線では、弁護士に法務DDを依頼した場合の報酬は恐ろしい金額になるうえに、DDで許容できないリスクを発見できればM&Aは中止されるので費用をかけたくはなく、できるだけ内製化したい作業となります。しかし、株主への説得材料のために著名法律事務所に依頼せざるを得ない場合もあるのが現実です。

契約書の作成は弁護士の得意分野なので、外部の弁護士に依頼することが多いと思います。しかし、それよりも、株主総会や取締役会を手配する機関法務に手間がかかります。スケジュールを組んで必要なリリースを出して会議を設営してドキュメントを作成して、法務部や総務部は泣きたくなるほど忙しくなります。

また、現実のM&Aでは、契約が締結された瞬間に人や物が同化するわけではありません。就業規則などを整備し、人員の離脱や衝突が生じないようにし、新たに生じた業務の重複を削減し、M&Aをスタート地点としてビジネスを円滑に立ち上げることが求められます。これら作業は既に社内問題なので、外部の弁護士に頼ることはできません。

4.クロスボーダーM&A

クロスボーダーM&Aでは現地在住の外国法弁護士の力が絶対に必要になります。外国の法律がわからない上に、法務DDを資料集めの段階から頼ることになるからです。法務DDの勘所がわかっている現地在住外国法弁護士を見つけることは困難ですし、言語の壁だけでなく専門用語の壁もあります。そのため、多くの場合、クロスボーダーM&A案件は、外国に進出している大規模法律事務所に依頼することになるでしょう。

大規模法律事務所を直ぐに辞めてしまった先輩が、自分は翻訳をするために弁護士になったわけではないと愚痴っていましたが、企業目線では、大規模法律事務所が頼りになるのはまさに先輩が従事していた翻訳です。経験上、英文法律文書の翻訳を翻訳業者に依頼してまともな和訳が出てきたことがありません。翻訳には、必要に応じて外国法を学ぶガッツと日本法の知識の双方が必要になり、適任者は若手弁護士です。

筆者が企業内弁護士時代にクロスボーダーM&Aをおこなった際には、幸運にも国際会計事務所から現地在住の日本人外国法弁護士の紹介を受けることができ、言葉の壁を感じずに取引を進めることができました。

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5.企業は町弁(街弁)(マチ弁)をよく使う

企業が外部の弁護士に依頼する業務の大部分は訴訟対応です。取引先に対する貸金返還請求や売買代金支払請求もあれば、従業員や元従業員との間の労働事件もあります。顧客から言いがかりのような少額訴訟を起こされることもあります。これら事件は一般民事として分類されることが多いですが、ここでは企業法務に分類します。

筆者のかつての勤務先企業は、大規模法律事務所、ブティック系法律事務所、町弁(街弁)(マチ弁)など、複数の法律事務所とお付き合いがありました。そして、支出を固定化するために、依頼のほとんどはタイムチャージではない街弁に対しておこなっていました。上場企業の訴訟事件は大規模法律事務所の寡占状態にあるということはまったくありません。また、法律事務所の規模が大きくなければなるほど、利益相反が生じやすくなり依頼できない事件が増えるというジレンマもあります。

6.企業法務は縁の下の力持ち

企業法務という言葉には華やかな響きがありますが、その実態は表に立つより裏方での活躍で、その責任は重大です。企業法務は地道な作業の積み重ねで最悪の結果を回避する縁の下の力持ちであり、手を抜いてしまえば、企業は簡単なことで倒れるようになってしまいます。企業法務の現実を知った上で縁の下の力持ちになりたいと感じた方は、C&Rリーガル・エージェンシー社お気軽にご相談ください。どのような企業法務に携わりたいのかをお伺いしたうえで、ご希望の環境をご紹介いたします。

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記事提供ライター

弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

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