業界トピックス

転職を考えている弁護士のための業界研究シリーズ-IT業界の法務を知る

INDEX
  • IT業界の法務職とは?他業種との違いを知る

  • IT業界で働くメリットとデメリット

  • IT企業の法務の1日|業務スケジュールの例

  • IT企業で弁護士が担う役割とは?

  • IT業界の法務に向いているのはどんな人?

  • IT業界の法務の情報が欲しい方はC&Rリーガル・エージェンシー社へ

弁護士の仕事は、所属する業界や組織によって大きく異なります。特に企業内で働くインハウスロイヤーは、法律知識だけでなく、ビジネスの現場感覚や柔軟な対応力も求められます。

そのため、転職を考える際には「どの業界でどんな法務に携わるのか」を知ることが重要です。本記事では、なかでも変化が激しく成長著しい「IT業界」に焦点を当て、業務内容や働き方、求められるスキルなどをわかりやすく解説します。

業界研究の一環として、IT法務というキャリアの可能性をのぞいてみませんか?

IT業界の法務職とは?他業種との違いを知る

IT業界の法務職は、契約書のチェックや法的トラブルへの対応、社内コンプライアンスの整備など、他の業界と共通する基本的な業務を数多く含んでいます。しかし、業界特有のスピード感や技術革新の速さ、多様なプレーヤーとの関係性から、その役割の幅広さと進め方には大きな特徴があります。

特にIT業界では、クラウドサービスやAI、ブロックチェーン、SaaSといった新しい技術・ビジネスモデルが次々に生まれています。これらは、既存の法制度だけでは十分に対応しきれないケースも多く、法務担当者には「前例がないことをどう処理するか」「グレーゾーンにどう向き合うか」という応用力や判断力が求められます。従来型の“ルールを守らせる法務”ではなく、“ルールを読み替えながら、ビジネスの推進に貢献する法務”が必要とされているのです。

たとえば、AIが生成したコンテンツの著作権は誰にあるのか、クラウド上に保存された個人情報を海外サーバーに移転してよいのか、アプリ上のUIが他社のデザインと酷似している場合にどう対応するか──こうした実務的な問いに即応し、現場とともに最適解を模索していくのが、IT法務の醍醐味です。

また、日常的にエンジニアやプロダクトマネージャー、デザイナー、セールス、マーケティングなど、他部署の専門職と協働する場面が多いため、IT法務には「技術の仕組み」や「プロダクトの開発プロセス」「UX設計の背景」といった非法律的な知識も求められます。法律家としての知識だけでなく、現場と同じ視点を共有できるような“ビジネス感覚”を持ち合わせることで、社内で信頼され、真のパートナーとして機能することが可能になります。

さらに、IT業界のビジネスはスケールが広く、グローバル展開を前提としている企業も少なくありません。そのため、国境を越える契約や、GDPRなど国際的な法規制への対応が日常業務の一部になることもあります。たとえば「米国でのサービス展開における商標の取り扱い」「EUユーザーへのデータ転送と同意取得の方法」など、多様な法制度を理解しつつ、国内外の規制の橋渡しをする役割も求められます。

このように、IT業界の法務職は、単なる“社内のチェック機能”を超えて、ビジネスの伴走者・加速装置としての立ち位置を担うことが多くなっています。新しいサービスを「実現するにはどうしたらよいか」という前向きな思考で業務に関われる点に、他業種の法務職にはないやりがいがあると言えるでしょう。

IT業界で働くメリットとデメリット

IT業界の法務職には、他業種にはない魅力ややりがいがある一方で、特有の難しさも存在します。ここでは、実際に働くうえで感じやすいメリットとデメリットを整理してご紹介します。

■IT業界の法務職で働くメリット

IT企業で法務として働く最大の魅力は、「柔軟な働き方」と「成長機会の豊富さ」です。多くの企業では、フレックスタイム制や在宅勤務制度が整っており、オフィスに縛られない働き方が一般的になっています。たとえば、午前中は自宅で契約書のレビューを行い、午後はオンライン会議でエンジニアと仕様の確認をするといった、ライフスタイルに合わせた勤務が可能です。

さらに、IT企業では年功序列よりも成果主義が根付いている傾向が強く、年齢や経験年数にかかわらず、実力次第で重要な案件を任されることもあります。若手のうちからM&Aや資金調達に関与するチャンスがあり、「実務を通じて成長したい」「早く一人前になりたい」という意欲的な弁護士にとっては、非常に刺激的な環境です。

また、ビジネスの最前線に関われる点も魅力の一つです。新規事業の立ち上げに関与し、経営陣とともにスキームを設計したり、急成長するサービスの法的リスクを管理したりと、法務が“守り”だけでなく“攻め”の役割も果たします。自らの知見がビジネスの意思決定に影響を与える経験は、大きなやりがいにつながります。

さらに、IT業界はグローバル展開を見据えたビジネスが多く、国際契約やGDPRなどの海外法対応に携われる機会も豊富です。語学力や国際感覚を活かしたいと考えている弁護士にとっては、スキルを発揮できる場面が多い環境といえるでしょう。

■IT業界の法務職におけるデメリット

一方で、IT業界で法務職に就くことには、いくつかのデメリットもあります。

第一に挙げられるのは、業務のスピード感についていく必要があることです。開発やマーケティングの現場は、常に「早さ」が求められ、法務もそれに合わせて迅速な判断と対応を求められます。「じっくり考えてから対応したい」というスタンスだと、現場から取り残されてしまう可能性もあるため、スピードと正確性の両立が求められます。

また、IT技術や業界のトレンドは日々進化しており、学び続ける姿勢が必須です。クラウド、AI、ブロックチェーン、Web3、個人情報保護規制など、次々に現れるキーワードや概念をキャッチアップし、自社のビジネスとどう関係するかを理解したうえで、法的助言を行う必要があります。常にアンテナを張り、情報をアップデートしていく労力は、決して小さくありません。

さらに、企業の成長フェーズによっては、法務体制が未整備であることも多く、制度やルールを一から整備する必要があります。「法務部員は自分だけ」「まだ稟議書すら定まっていない」という状況も珍しくなく、立ち上げの苦労や周囲への啓発活動が必要になる場合もあります。

加えて、他職種と密接に連携する分、法務的な考え方が理解されづらいシーンもあります。エンジニアやデザイナーにリスクを伝える際には、専門用語を使わず丁寧に説明しなければならず、「伝える力」や「説得力」が非常に重要になります。単に正解を提示するだけでなく、「現場が動きやすい形で落とし込む」ことも求められるため、コミュニケーション能力や共感力が不可欠です。

IT企業の法務の1日|業務スケジュールの例

IT企業の法務担当者の1日は、社内外の人とやりとりしながら、いろいろな案件を同時に進める忙しいものです。とくにベンチャー企業では「何でも屋」として、契約やリスクチェックだけでなく、広報や企画にも関わることがあります。

以下は、インハウス弁護士としてIT企業で働くある一日の例です。実際の働き方は会社によって異なりますが、業務のイメージがつかみやすいよう、具体的なスケジュールとしてまとめました。

9:00〜10:00
出社・メールやチャットの確認、当日のタスク整理。週明けは社内からの契約レビュー依頼が集中しがち。

10:00〜11:00
新サービスの利用規約のドラフトをチェック。ユーザー視点でわかりやすさを確認しつつ、法的リスクがないかを確認。

11:00〜12:00
マーケティングチームとキャンペーン企画に関する打ち合わせ。「この表現、景品表示法的に大丈夫?」などの相談に対応。

12:00〜13:00
昼休憩。とはいえチャットツールには通知が飛び続けるため、緊急時は即対応。

13:00〜14:30
開発チームとオンライン会議。API仕様変更に伴うSaaS契約書の修正点について協議。実際のサービス設計に即した条文を検討。

14:30〜16:00
外部取引先との契約書調整。相手方から送られてきた契約条項に赤入れをし、修正案を作成して送付。

16:00〜17:00
コンプライアンス強化のための社内研修資料を作成。個人情報の取り扱い方針を最新法令に沿ってアップデート。

17:00〜18:00
役員報告用の月次法務レポートを作成。リスク傾向や未決案件の進捗を整理して報告。最後に翌日のタスク整理をして退勤。

このように、チャットツールやオンライン会議を駆使しながら、複数の部署と連携しつつプロジェクトを進行するのがIT法務の特徴です。突発的な相談にも即対応する柔軟さと、優先順位を見極める判断力が求められます。

実際、小規模なIT企業ではインハウス弁護士が「法務+広報+研修+経営支援」として働く例もあり、日によって業務内容が大きく変化します。たとえば「午前中は契約書チェック、午後はウェブサイトの規約更新、夜は社内のエンジニアと仕様調整」など、1日で全く違う種類の業務をこなすことも珍しくありません。

IT企業では、在宅勤務やフレックスタイム制度、週4勤務といった柔軟な働き方を取り入れている企業も多く、自分のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。仕事とプライベートのバランスを大事にしたい人にも、働きやすい職場といえるでしょう。

IT企業で弁護士が担う役割とは?

IT企業で弁護士が担う役割は多岐にわたり、単なる「契約書のチェック係」では終わりません。技術と法の交差点に立ちながら、経営判断を法的に支える存在として、事業の根幹に深く関わるポジションです。

たとえば、契約法務としては、業務委託契約・ライセンス契約・利用規約・SaaS契約・秘密保持契約(NDA)など、IT特有の契約を多く扱います。特にITサービスでは、仕様変更やリリースサイクルが早いため、契約もそれに即して柔軟な設計が求められます。

戦略法務の面でも重要な役割を果たします。新規事業の立ち上げや資金調達、M&Aなどにおいて、法的リスクの洗い出しやビジネススキームの提案などを通じて、経営判断に法的な裏付けを与えます。また、IPO(株式上場)準備企業であれば、株式関連の手続き、情報開示体制、社内規程整備といった上場審査対応にも法務が深く関与します。

近年では、個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)などの対応も重要な任務の一つです。プライバシーポリシーの策定や改定、Cookieポップアップの表示設定、第三者提供に関する同意取得の仕組みなど、技術部門と連携しながら進める場面も多くなっています。

さらに、知的財産(IP)管理も重要です。特許や商標、著作権に関する権利の取得・管理・ライセンス交渉など、IT企業の価値の源泉である“技術”や“コンテンツ”を守る仕事も担います。ソースコードやUIデザイン、AIの学習データなど、法律のグレーゾーンにあるものについても判断が求められます。

企業規模やフェーズによっては、弁護士が法務部門の立ち上げやガバナンス体制の構築を担うこともあります。ベンチャーやスタートアップでは、法務が1名体制で人事・労務・内部通報・総務まで兼務しているケースも少なくありません。

また、経営陣と近い距離で働くことが多く、代表取締役や取締役会に対して法的リスクを可視化し、経営判断の一助となるような資料作成や説明対応も日常業務に含まれます。会社の「守り」と「攻め」を両方担うのが、IT企業における弁護士の特徴です。

IT業界の法務に向いているのはどんな人?

IT業界で法務として活躍するためには、単なる法律知識だけではなく、さまざまなスキルやマインドが求められます。ここでは、IT法務に向いている人の特徴を、わかりやすくご紹介します。

まず大切なのは、「ロジカルさ」と「柔軟さ」のバランスです。IT企業ではスピード感があり、変化も激しいため、マニュアルどおりの対応では通用しないこともあります。問題に直面したとき、法律的なロジックで冷静に考えつつも、現場の事情や事業目的をくみ取って柔軟な対応ができる人が求められます。

次に重要なのは、「コミュニケーション能力」です。特にエンジニアや営業、企画など、法務以外の専門職と協力して仕事を進める場面が多いため、専門用語を使わずにかみ砕いて説明したり、相手の意図をくみ取ったりする力が必要です。法的なリスクを正しく伝えつつ、相手と対立せずに一緒に解決策を考えていけるような関係性を築ける人が重宝されます。

また、IT法務では「IT業界や技術に興味を持てること」も大きな強みです。最初から専門知識がなくてもかまいませんが、システム開発の流れやアプリの仕組みなどに関心を持ち、自分で学んでいける姿勢があると、現場の理解が深まり、業務もスムーズになります。

さらに、これまでの実績やバックグラウンドを活かせる場面も多くあります。たとえば、以前にIT業界での勤務経験があったり、特許や著作権に詳しかったり、語学が得意だったりすれば、それぞれの強みを活かして専門性の高い分野で活躍することが可能です。

最後に、「変化を前向きに受け入れられる人」もIT法務に向いています。日々アップデートされる法律や技術、社内の体制やビジネスモデルの変化に対し、柔軟に学び、適応していく姿勢は、この業界で長く働くうえで大きな武器になります。

つまり、IT法務に向いているのは、

・法的思考力と柔軟な発想を持っている人
・他職種との対話を楽しめる人
・新しい技術やサービスにワクワクできる人
・日々変わる環境に前向きにチャレンジできる人

こうした特徴を持つ方であれば、IT法務というフィールドで力を発揮し、企業の成長を法的に支えるやりがいのある仕事に出会えるでしょう。

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記事提供ライター 中澤 泉(弁護士)

弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。
事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。

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