法律事務所における企業法務とは|企業の法務部との違い、企業法務系法律事務所の業務内容、必要なスキル等を解説
- INDEX
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企業における企業法務との違い
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法律事務所の規模ごとの企業法務の特徴や相違点
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法律事務所における企業法務の役割・実務詳細
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法律事務所における企業法務の注意点・業務の面白さ・やりがい
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必要なスキル・求められる能力・マインドセット・向いている人
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企業法務系事務所に転職したい方へ
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企業における企業法務との違い
企業法務は、企業の安定した経営と持続的な成長を支えるために欠かせない業務です。しかし、その担い手が「企業の法務部」と「法律事務所の企業法務」では、立場や役割、求められる視点が大きく異なります。
■立場の違い
企業内法務担当者は、企業に専属し、各部門からの相談に応じて日常的な法律問題に対応する“かかりつけ医”のような存在です。経営戦略や社内事情に精通し、営業部門や企画部門と同じ目線で現場に密着してサポートします。
これに対して法律事務所の弁護士は、企業の“外部専門家”として、案件ごとに選ばれる“専門医”の役割を担います。社内ではカバーできない高度で専門的な分野や、大規模・複雑な案件を中立的な立場から支援するのが特徴です。
■考え方・目的の違い
法務担当者は、経営判断やビジネス事情を踏まえた現実的な解決策を模索し、社内の調整役としての側面が強いのが特徴です。秘密保持契約の締結、取締役会資料のレビューなど日常的な業務は、外部弁護士に依頼せずとも社内で完結することがほとんどです。
一方、法律事務所の弁護士は、案件ごとに専門的かつ最新の法的アドバイスを提供し、企業の法的リスクを最小限に抑えることが目的です。大型M&Aや国際紛争対応などは、法務部だけではリソース不足になりやすく、法律事務所のチームが迅速に人的リソースを提供できる点が強みです。
■関与範囲と深度の違い
法務担当者は、プロジェクトの初期段階から深く入り込み、各部署との調整や社内研修、内部統制強化など、企業活動全体にわたってリスクマネジメントを行います。
さらに、外部弁護士に依頼すべき案件では、適切な弁護士の選定やマネジメント、費用対効果を考えた効率的な活用までを担う“リエゾン(橋渡し役)”の役割も重要です。
法律事務所の弁護士は、法務担当者が抱えきれない専門性の高い分野をカバーし、他社事例を含めたノウハウの提供、最新の法改正対応などを含め、社内では得難い知見を提供します。
■難易度・案件の種類
法務担当者が扱うのは日常的・反復的な業務が中心で、属人的な知見が蓄積されやすい傾向にあります。一方、法律事務所の弁護士は多様なクライアント・案件に携わり、業界横断的な知識や最新の判例を活用する必要があります。
特にクロスボーダーM&Aや不祥事対応、国際カルテル案件など、限られた時間で多数の弁護士が必要となるような場面では、外部弁護士の機動力が欠かせません。
法律事務所の規模ごとの企業法務の特徴や相違点
一口に企業法務を扱う法律事務所といっても、その規模によって取り扱う案件の種類や業務の進め方、クライアントとの距離感には大きな違いがあります。
ここでは、大手・中堅・小規模の企業法務系法律事務所の特徴を具体的に解説します。
■大手法律事務所の企業法務
大手の企業法務系法律事務所は、国内外の有名企業や上場企業をクライアントに持ち、扱う案件も社会的に注目されるようなものが多いのが特徴です。
たとえば、クロスボーダーM&A、大規模企業再編、ファイナンス、不祥事対応、知的財産権紛争など、ニュースで取り上げられるレベルの案件に携わる機会も珍しくありません。こうした大型案件では、各プラクティスグループ(専門分野)から弁護士を選抜し、最適なプロジェクトチームを編成して取り組みます。税務・会計・海外法規制など他分野の専門家とも連携し、多国籍チームでスピード感を持って対応する必要があるため、高度な専門性と英語力、チームマネジメント力が求められます。
■中堅・中規模法律事務所の企業法務
中堅・中規模の法律事務所は、大手ほどの巨大案件を扱う機会は多くないものの、上場企業から地域の有力企業、成長期のベンチャー企業まで、幅広いクライアント層を抱えているのが特徴です。特に、クライアントとの距離が近く、日常的な法律相談を受けることが多い点が大きな魅力です。
企業によっては社内に専任の法務部を置いていないケースも珍しくありません。そうした場合には、企業内法務担当者にするような契約書の作成・審査、労務管理、社内規程の整備、株主総会の運営サポートなどを、外部の法律事務所が“社外の法務部”のような立場で担うこともあります。
さらに、クライアント企業が大きなプロジェクトに挑む際には、必要に応じて他の法律事務所や専門家とチームを組み、分野横断でサポートする柔軟さもあります。
「幅広い案件に対応する総合力」と「柔軟に専門家と連携できる機動力」が、中堅・中規模事務所の大きな強みです。
■小規模法律事務所の企業法務
小規模な法律事務所でも、企業法務を専門的に扱うケースは数多くあります。むしろ、地域の中小企業やスタートアップ、家族経営の会社など、社内に専任の法務部を持たない企業にとっては、小規模事務所の弁護士が“外部の法務部”のような役割を果たすことが一般的です。
中堅・中規模事務所が幅広い業種のクライアントに対応しつつ、必要に応じて外部の専門家とも連携するという立場であるのに対して、小規模事務所の場合は、さらに一歩踏み込み、クライアントの日常業務に深く入り込みながら、「企業内法務担当者のような感覚で相談できる存在」として企業に寄り添うケースが多いのが特徴です。
たとえば、契約書の作成・レビュー、労務問題、債権回収、クレーム対応など日常的な相談を受けるだけでなく、経営者や現場担当者との距離が近く、「困ったときにすぐに電話できる・直接会える」という安心感を提供しています。
少人数だからこそ、幅広い分野にワンストップで対応する総合力と、フットワークの軽さ、信頼関係に基づくきめ細かな対応が、小規模事務所の大きな強みです。
法律事務所における企業法務の役割・実務詳細
企業法務と一口にいっても、クライアントの業界や企業規模、成長フェーズによって法律事務所が担う役割や実務の内容は大きく変わります。
ここでは、代表的なクライアント業界ごとに企業法務の特徴を整理しながら、法律事務所がどのように関与するのかを具体的に見ていきましょう。
■大手・上場企業
大手企業や上場企業は、社内に法務部門を持っている場合がほとんどですが、社内だけでは解決できない複雑で専門性の高い案件については法律事務所に相談します。
具体的には、クロスボーダーM&A、企業再編、大規模訴訟、グループ企業間の取引スキームの構築、海外法規制対応など、一度の意思決定が大きな影響を及ぼす案件が中心です。
大手の法律事務所であれば、プラクティスグループの弁護士を組み合わせたチームを編成し、他の専門家とも連携しながら長期的かつ高度なプロジェクトを進めていきます。
■金融機関・ファイナンス分野
銀行、証券、保険会社、ファンドなど、金融業界をクライアントに持つ法律事務所では、資金調達、プロジェクトファイナンス、規制対応、金融商品取引法や銀行法など業法に基づく高度な専門知識が求められます。
特に不祥事が発生した場合の第三者委員会の設置や社内調査、当局対応などはスピード感と正確性が最も重要視されるため、業界に強い法律事務所のサポートが不可欠です。
■中小企業・地域密着型企業
地域に根ざした中小企業にとっては、そもそも専任の法務部がないケースが多いため、法律事務所が“社外の法務部”として、契約書チェックや労務管理、債権回収、クレーム対応など日常の法律相談にワンストップで対応します。
経営者と直接コミュニケーションを取り、必要に応じて会計士や社会保険労務士など他の士業と連携するのもポイントです。
■ベンチャー企業・スタートアップ
ベンチャーやスタートアップでは、日々の小さな法的相談から資金調達、株式発行、ジョイントベンチャー設立など、成長に伴って企業法務のニーズが急激に広がります。
法律事務所は、これらの企業にとっての“外部法務部”として、日常の契約書作成・レビュー、資本政策の相談、VCとの契約交渉支援、ストックオプション設計、IPO(株式上場)準備など幅広いテーマを一気通貫でサポートします。
経営層と近い距離で密にコミュニケーションを取り、「何をどのタイミングで進めるべきか」という成長戦略に深く関わる点が特徴です。
法律事務所における企業法務の注意点・業務の面白さ・やりがい
企業法務は「単調なルーティンワーク」というイメージを持たれることもありますが、実際には、クライアントの業界や案件の規模、社会情勢に応じて扱う内容は多岐にわたり、知識のアップデートと柔軟な対応力が求められる非常にダイナミックな分野です。
■信頼とスピードが命
企業法務では、クライアントがトラブルを未然に防ぐために“何かあればすぐに相談できる”関係性が大前提です。そのため、日常的な相談対応ではレスポンスの速さと、分かりやすく的確な助言が何より重視されます。
また、企業の経営戦略や内部事情を踏まえた上で、ビジネスに即した現実的な解決策を提示しなければなりません。「法的に正しい」だけではなく、実現可能性や社内調整の難易度まで考慮して、最適な落とし所を一緒に模索する姿勢が信頼につながります。
■コンプライアンス意識と守秘義務
企業法務は取引先との契約条件、株式情報、組織再編、資金調達計画など機密性の高い情報を扱う場面が多く、守秘義務の遵守は必須です。特に複数のクライアントを担当する場合、情報管理の徹底や、利益相反の回避には最新の注意を払わなければなりません。
■面白さ・やりがい
法律事務所で企業法務に携わる最大の魅力は、クライアント企業の“成長の伴走者”として、日々変化するビジネスの最前線に関わり続けられることです。
企業が新規事業を立ち上げるとき、海外進出を目指すとき、あるいはトラブルが発生したときに、最適なリーガルアドバイスを提供し、経営判断を支える役割を果たすことで、弁護士としての専門性だけでなく、ビジネス感覚も磨かれます。
また、企業の規模や業界が多様であるため、一つとして同じ案件がなく、毎回新しい知識と経験を得られる点も、企業法務を専門にする大きなやりがいです。
■キャリアの幅が広がる
企業法務は専門分野が多岐にわたるため、「ジェネラリストとして幅広く携わる道」と、「得意分野を深めて専門性を高める道」の両方があります。これにより、自身のキャリアプランに合わせて成長の方向性を柔軟に描けるのも魅力の一つです。
必要なスキル・求められる能力・マインドセット・向いている人
企業法務を専門に扱う弁護士には、法律知識だけでなく、多様なスキルとマインドセットが求められます。ここでは、法律事務所で企業法務を手がけるうえで特に大切なポイントを整理します。
■法的知識と専門性
当然ながら、企業法務の土台は法律知識です。民法、会社法、労働法、知的財産法、独占禁止法など扱う分野は多岐にわたり、業界や案件によって必要な専門知識も異なります。
大手法律事務所では、クロスボーダー案件が多いため、外国法弁護士資格を取得しておくと活躍の幅がさらに広がります。
■ビジネス感度と柔軟な思考力
企業法務では「法的に正しいだけでは十分ではない」場面が多々あります。クライアントの事業内容や業界動向、経営課題を理解したうえで、現実的にどの選択肢が最適かを考えるビジネス感度が重要です。
変化の激しい状況下でも、柔軟に考え、経営層や現場と目線を合わせられる弁護士は、顧問先から信頼され続けます。
■コミュニケーション力と調整力
企業法務は“人とのやりとり”が多い分野です。クライアントの経営陣や各部署との調整はもちろん、他の専門家や海外の弁護士との連携も頻繁に発生します。相手の意図をくみ取り、わかりやすく説明する力、誤解を防ぎながら利害を調整する力は必須スキルです。
■正確性とスピード、体力
契約書の条項一つでクライアントに多大な損失が出る可能性があるため、正確さは企業法務を扱う弁護士にとって絶対条件です。
また、クライアントからの急な相談や期限の迫った案件にも対応できるスピード感と一定の体力も求められます。
■営業力と信頼構築
企業法務は一度きりの案件ではなく、長期的な顧問契約として信頼関係を築き続けることが多い分野です。顧問先から「この弁護士に任せたい」と思ってもらえる誠実さと提案力、新たなクライアントを開拓する営業力も、特に独立を視野に入れる場合は欠かせません。
■企業法務を取り扱う弁護士に向いている人の特徴
次のような人は、企業法務を取り扱う弁護士に向いていると言えるでしょう。
・法律の専門性だけでなく、企業経営やビジネスに興味がある人
・調整役として人と話すことが苦にならない人
・新しい知識を貪欲にキャッチアップできる人
・単調な作業でも正確さを保てる人
・経営層に近い立場で企業の成長に寄り添いたい人
企業法務系事務所に転職したい方へ
企業法務を扱う法律事務所は、規模や専門分野によって働き方や求められるスキルが異なり、自分のキャリアをどのフィールドで磨いていくかを考えることがとても大切です。
「もっと大手の企業法務系事務所で大型案件に挑戦したい」
「別分野の経験を活かして、これから企業法務分野にチャレンジしたい」
そんな方には、企業法務に精通した転職エージェントに相談することで、表には出にくい情報や自分に合う環境を知ることができます。
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