業界トピックス

小話 ~弁護士の社会保険~

目次
  • 1.厚生年金への憧れ?

  • 2.筆者と厚生年金

  • 3.流行りのトッピング方式

  • 4.トッピングまみれの筆者

1.厚生年金への憧れ?

ある飲み会にインハウスの新人弁護士が参加していました。すると、法律事務所に就職した新人が、インハウスは厚生年金に加入できて羨ましいとしきりに口にしていました。また、ある弁護士が、弁護士法人化のメリットを説明する際に、代表弁護士も厚生年金に加入できることを挙げていました。筆者は賛同しかねますが、厚生年金に憧れている弁護士もいるようです。

筆者は、勤務弁護士、国会議員公設秘書、インハウス、独立開業を経験し、様々な社会保険制度に加入してきました。その筆者の目から見ると、弁護士の社会保険制度が一番恵まれています。ここでは、弁護士がどれほど恵まれているのか、勝手に弁護士業界を代表してプレゼンしたいと思います。

2.筆者と厚生年金

筆者は、国会議員公設秘書時代とインハウス時代に厚生年金(と健保組合)に加入していました。国会議員公設秘書時代には、単純に、自分は厚生年金に加入しているので安心だと考えていました。

その後、筆者はインハウスになりましたが、元々大学院で経営学を勉強していたため、本業は経営企画で法務も統括するというポジションでした。グループ全体の予実管理がお仕事だったので毎月予算進捗とにらめっこをしていましたが、法定福利費が結構な金額になっており、厚生年金の事業主負担分を意識するようになりました。

給与明細を見ていても、毎月厚生年金と健康保険が豪快に天引きされており、これとほぼ同額を会社が負担していることも考えれば、厚生年金は、年金受給者が現役世代から搾取するための現代の奴隷制度だと感じていました。

また、厚生年金には、第3号被保険者や遺族厚生年金による配偶者の保護という機能があります。筆者は貴族(独身)なのであずかり知らぬ話ですし、同世代の既婚者はほとんどが共働きなので、厚生年金はつくづく時代錯誤な制度です。

そして、厚生年金は、直ぐに等級が頭打ちになってしまいます。健康保険の等級はなかなか頭打ちにならないというのに酷い話です。筆者が厚生年金に加入したのは31歳と遅かったため、定年までインハウスを続けていても、豊かな老後には程遠い年金しかもらえない試算でした。

もはや我慢ならん。筆者は年金受給者の奴隷でいることをよしとせず、新天地を求めて独立開業したのでした。

3.流行りのトッピング方式

2021年、某携帯電話会社が、ミニマムな基本プランに必要に応じてオプションをトッピングしていくことを提唱し始めました。筆者は、このサービスを知ったとき、ようやく時代が弁護士に追いついたと感じました。

社会保険は、年金保険、医療保険(及び介護保険)、雇用保険、労災保険に分類されることが多いようです。なにもしていない弁護士の場合、年金保険は国民年金のみ、医療保険は市町村の国民健康保険、雇用保険と労災保険はなしとなります。これだけでは不足するので、弁護士業界では様々なオプションが用意されています。

日本弁護士連合会は、年金保険のオプションとして、日本弁護士国民年金基金(年金基金)と互助年金を用意しています。

年金基金には、社会保険料控除の枠が大きいこと、加入時の予定利率が保証されること、という2つのメリットがあると言われています。デメリットとしては、任意に脱退できないこと、逆に、なんらかの理由で厚生年金に加入することになった場合には脱退しなければならないこと、が挙げられます。予定利率が下がった上に、弁護士の働き方の多様化・流動化が進んだ現代では、専ら目先の節税効果に期待するためのものだと言えるでしょう。

所得にかかわらず若手弁護士に強くおすすめしたいのが互助年金です。互助年金には、一口5,000円で毎月払いのA種と、A種への加入を条件に加入できる一口100,000円で一時払いのB種が存在します。84歳になるまで加入することができる終身年金保険で、15年の保証期間がついています。所得控除の枠はとても小さく、利率も年金基金をやや下回るので、一見魅力がなさそうな保険商品です。しかし、注目したいのはB種です。弁護士は、遅い社会人スタートとなるものの、スタートダッシュを決められる可能性が高く、息が長い職業です。できるだけ若いうちにまとまった金額を用意して、B種に全ツッパし、寝かせるだけ寝かせれば、複利計算の恩恵を存分に受けて、結構びっくりする終身年金に育ってくれます。弁護士登録を継続する限り厚生年金と同時に加入できることも魅力で、インハウスに転身しても無駄になりません。

医療保険のオプションとしては、東京近郊で登録している弁護士に限られますが、東京都弁護士国民健康保険組合(弁護士国保)が用意されています。弁護士国保は、所得にかかわらず保険料が一律かつ低水準という夢のような制度です。筆者も、関西から東京に移った際に、東京の弁護士はずるいと感じました。

雇用保険については、個人事業主である弁護士は自分で辞めない限り無職になることはないので、不要です。

労災保険に代わるものとしては、弁護士所得補償保険があります。筆者は車椅子でバリバリ活躍されている弁護士を知っていますし、先輩が利き腕を骨折したときも書面作成以外はさほど困らずに治療と業務を両立させていました。そのため、労災保険の必要性は薄いとも言えます。しかし、経営者弁護士が入院している間にも、事務所の賃料や事務職員の人件費は発生し続けます。これを補填してくれるのが弁護士所得補償保険です。

4.トッピングまみれの筆者

特に東京近郊の弁護士は、ミニマムの状態では、サラリーマンはもちろんのこと、他の個人事業主よりもずっと安い社会保険料しか支払っていないので、自然とお金が余るはずです。筆者はお金の計算が大好きなので、厚生年金に加入していた場合にかかる社会保険料(事業主負担分込)を予算として、ふんだんにトッピングをしています。

定年がないことは弁護士の最大の魅力です。筆者も、少なくとも70歳までは現役でいる予定なので、年金保険もその前提でトッピングしています。先ず、70歳から80歳までは10年確定の利回りの良い個人年金に加入しました。なんとか70歳代を生き延びて互助年金B種を80歳まで寝かせられれば、その後は厚生年金では到底実現しえない年金を受給できる予定です。自分に何かあれば15年保証が発動するので、未だ見ぬ筆者の家族も安心です。その他にも、保険会社からもう入る保険がないと言われてしまうほど様々な保険に入っているので、何かあれば備えあればうれしいなです。

弁護士の多くは実際に厚生年金に加入したことがないので隣の芝生が青く見えているのでしょうが、職を転々としてきた筆者の認識では、社会保険制度について弁護士ほど恵まれた職業はありません。相続対策や成年後見の仕事でクライアントの老後を計算する度に、弁護士で良かったと感じます。

記事提供ライター

弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

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