業界トピックス

弁護士法人に勤務すると何が違うの?

INDEX
  • 1.弁護士法人と弁護士事務所の違いとは?

  • 2.弁護士法人と法律事務所の年収の違い

  • 3.弁護士法人と法律事務所の働き方の違い

  • 4.まとめ

1.弁護士法人と弁護士事務所の違いとは?

弁護士の事務所の中には、弁護士法人とそうでない法律事務所があります。就職/転職活動をしていると両者はどのように違うのかが気になるところでしょう。ここでは、そもそも弁護士法人とは何であるのか、勤務先として考えた時に弁護士法人と法律事務所との間に違いはあるのか、について解説します。

1-1.弁護士法人とは?

弁護士法人は、弁護士法第3条に規定する業務を行うことを目的とする法人です(30の2①。特に指定のない場合弁護士法の条文を示すものとし、以下も同様とします。)。弁護士法人は、弁護士のみが社員となることができ、社員は1名でも足ります(30の2①、30の4①、30の8、30の22①7、30の23)。名称中に「弁護士法人」という文字を使用することが義務付けられていますが(30の3)、法律事務所と名乗る必要はありません。例えば弁護士法人リーガル・エージェンシー社と名乗ることも可能です。

1-2.法人格がある

弁護士法人は法人であるため、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負います(30の2①、民法34)。そのため、勤務弁護士との間の契約も、依頼者との間の契約も、弁護士法人が主体となって、弁護士法人の名義で締結することが可能です。一方で、法律事務所は、弁護士の事務所の呼称に過ぎません(20Ⅰ)。法律事務所には法人格はなく、勤務弁護士との契約も、依頼者との契約も、経営者弁護士個人が主体となって、その名義で締結しなければなりません。

1-3.支店を出すことができる

弁護士は、いかなる名義をもってしても、2つ以上の法律事務所を開設することはできません(20Ⅲ本文)。しかし、弁護士法人は、従たる事務所として支店を出すことができます(30の17但書からの解釈)。支店を出せることは弁護士法人最大のメリットであり、弁護士法人の多くは、支店を出すために弁護士法人になったと言っても過言ではありません。

2.弁護士法人と法律事務所の年収の違い

結論から先に述べると、両者の間に年収の違いはありません。転職市場においては弁護士の年収の相場が形成されていますが、その際に検討されるのは、主として、経験年数、取扱分野、活動地域です。勤務先が弁護士法人であるか法律事務所であるかによって年収が変わることはありません。

勤務弁護士にとって重要となるのは、勤務先との間で締結する契約が雇用契約であるか業務委託契約であるかの違いです。年収の金額的には勤務先に社会保険料等の負担がかかる雇用契約の方が低くなることが通常ですが、その分、自分で国民年金や国民健康保険に加入する必要がなくなります。また、勤務先から得られる収入は、雇用契約においては給与、業務委託契約においては売上となり、後者からは弁護士会費等の経費を控除することが可能です。個人受任ができない場合には、節税という観点からは業務委託契約の方が優れていると言えるかも知れません。

雇用契約と業務委託契約との間には一長一短ありますが、一般論としては、弁護士法人の方が、法律事務所よりも、雇用契約の割合が高くなると考えられます。弁護士法人化のメリットとして、組織の明確化、雇用関係の明確化、社会保障の充実が考えられるところ、弁護士法人が勤務弁護士との間で雇用契約を締結することには合理性があるからです。もっとも、弁護士法人と業務委託契約を締結することも、法律事務所と雇用契約を締結することも、どちらもあり得ることですので、弁護士法人だから雇用契約になるとは限りません。

3.弁護士法人と法律事務所の働き方の違い

弁護士法人と法律事務所とでは、事件を受任する際の主体と名義が異なることは先に説明しました。だからといって、弁護士法人に所属する場合と法律事務所に所属する場合とで弁護士として求められる業務や能力が変わることはありません。弁護士法人と法律事務所との間で大きな違いが生ずるのは、社員になった場合に勤務先の債務についての責任の範囲と、経営者弁護士が引退する場合の事業承継です。

3-1.責任の範囲

問題となるのは、比較的経験の浅い弁護士が、弁護士法人の社員になる場合です。弁護士法人の社員は、弁護法人の債務について無限連帯責任を負います(30の15Ⅰ)。しかも、この無限連帯責任は、社員となる前の債務についても及ぶ上に、退所後2年間続きます(30の15Ⅶ、会社法612)。通常の法人は経営者個人を法人の債務から解放しますが、弁護士法人は、逆に、社員に弁護士法人の債務を背負わせるものであることに注意が必要です。

3-2.事業承継

法律事務所を事業承継する際に必要となる手続は煩雑です。問題は依頼者の引継ぎだけではありません。事務所賃貸策契約、コピー機リース契約、水道光熱費、電話等、事務所の経営にかかわるあらゆる契約が経営者弁護士個人に帰属しているので、その全ての当事者を交代する必要があります。相手方によっては、先代の経営者弁護士との契約を一旦解約して、新たな経営者弁護士と契約を結び直すことが求められます。そうなると、途中解約の違約金が発生する場合もありますし、新たな契約がこれまでよりも不利な内容になっている場合もあります。

先代の経営者弁護士が健在であれば、手間と時間はかかりますが、事業承継自体は可能でしょう。しかし、先代の経営者弁護士が突然亡くなってしまった場合、相続人の意向によっては、事業承継自体が不可能になります。

その点、弁護士法人ならば、社員弁護士のうちの一人が亡くなっても脱退という扱いになるだけで、弁護士法人自体は存続します(30の22③)。社員が一人しかいない場合であっても、社員の相続人の同意を得れば、新たな社員を加入させて弁護士法人を存続させることが可能です(30の24・30の23Ⅰ⑦)。あらゆる契約は弁護士法人名義でなされるので、名義変更も不要です。

弁護士法人には、経営者弁護士に事故があった場合でも、事務所が存続していくという安心感があります。

4.まとめ

弁護士法人と法律事務所は、法律的には大きく異なるものです。しかし、勤務先として考えた場合、両者の間には収入にも求められる能力にも違いはありません。就職/転職の際に問題とするべきは、弁護士法人であるか法律事務所であるかよりも、取扱分野や雰囲気・風土、経営者弁護士のキャラクター、契約形態、年齢構成(昇格や事業承継の参考として)といった事務所毎の事情でしょう。C&Rリーガル・エージェンシー社は、2007年から弁護士の就職/転職を支援しており、就職/転職の際にチェックするべきポイントを熟知しておりますので、将来も踏まえてどの環境に身を置くべきかお悩みの際にはお気軽にご相談ください。

記事提供ライター

弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

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