業界トピックス

【79期向け】司法修習の分野別実務修習の内容・流れ・修習地を徹底解説|全国一斉起案や先輩の体験談も紹介

INDEX
  • 分野別実務修習とは?司法修習の中での位置づけを解説

  • 分野別実務修習の内容と流れを詳しく解説

  • 分野別実務修習の期間と修習地選びのポイント

  • 先輩修習生が語るリアルな体験談

  • まとめ:修習生活を充実させるには?体験談・求人情報をチェック

司法試験に合格し、修習生登録を終えると、いよいよ司法修習がスタートします。その中でも中心的な位置づけとなるのが「分野別実務修習」です。
 
本記事では、分野別実務修習の内容やスケジュール、修習地選びのポイントから全国一斉起案まで、司法修習に臨む79期生が知っておくべき情報を徹底的に解説します。
 
さらに、先輩修習生のリアルな体験談も紹介。現場での悩みや工夫、貴重な学びを通して、これからの修習生活に役立つヒントをお届けします。

分野別実務修習とは?司法修習の中での位置づけを解説

司法修習は、法曹として現場に立つための準備期間。その中でも分野別実務修習は、実際の仕事を経験しながら学ぶ、いわば“実地訓練”のような位置づけです。
 
司法修習は大きく以下の5つのカリキュラムに分かれています。
 
① 導入修習
② 分野別実務修習
③ 選択型実務修習
④ 集合修習
⑤ 司法修習生考試(いわゆる二回試験)
 
このうち、②分野別実務修習と③選択型実務修習を合わせて「実務修習」と呼びます。
 
その中でも分野別実務修習は、裁判所・検察庁・弁護士事務所など、実際の法曹の職場に入り、実務を体験しながら学ぶ期間です。
 
どの進路を目指すにしても、この期間の経験はキャリアの土台になります。現場で見て、聞いて、考えて、自分なりに「法曹としてどうありたいか」を掴んでいく時間です。

分野別実務修習の内容と流れを詳しく解説

分野別実務修習は、4月から11月頃までの約8か月間にわたって行われます。
 
この期間中、修習生は以下の4分野を順番にまわっていきます。
 
・民事裁判修習
・刑事裁判修習
・弁護修習
・検察修習
 
それぞれのクールはおおよそ2か月間。順番は修習地によって異なりますが、4分野すべてを経験する点は全員共通です。
 
実際に法廷を傍聴したり、事件記録を読み込んで起案したり、依頼者対応を見学したりと、修習生は“法律が使われる現場”にどっぷり浸かります。
 
また、修習の合間には「家庭裁判所修習」や「全国一斉起案」など、短期間の特別なプログラムも組み込まれていて、法曹としての視野を広げる仕組みになっています。

■民事裁判(民裁)修習:判決起案と法的思考を磨く期間

民事裁判修習では、修習生が裁判所の一つの「部」に配属され、裁判官室で実務を体験します。実際の訴訟記録を用いた検討や起案、法廷傍聴などを通して、裁判官の仕事を現場で学ぶ期間です。修習地によって班の構成や順番は異なりますが、すべての修習生がこの民事裁判修習を経験します。

日々の実務:記録検討・傍聴・裁判官室での時間

裁判官室での2か月は、普段は立ち入れない“法廷の裏側”を知る貴重な機会です。裁判官や書記官の仕事の流れ、人間関係、準備の進め方まで、現場でしか見えない実務の全体像に触れられます。
 
修習の基本は、記録の読み込み・傍聴・起案の3本柱。事件記録を事前に読み込み、争点や証拠の位置づけを整理した上で法廷に臨みます。短時間で進行する期日も多く、どのタイミングでどの条文が使われているかを意識して観察する姿勢が求められます。
 
また、記録を通じて事実認定や法的評価の組み立てを実践することになり、「記録の読み方」「証拠の見方」といった、裁判官からの直接指導が得られる貴重な期間でもあります。

判決起案と講評:実践を通じて思考と表現を磨く

前半には短時間起案、後半には4件前後の本格的な判決起案を行います。題材を自ら選べることも多く、興味のある事件を深く掘り下げて考えることができます。
 
起案が終わると、担当裁判官から講評を受けます。三段論法の精度、事実認定の妥当性、文章構成の明確さなどについて具体的にフィードバックされ、自分では気づかなかった癖や思考パターンにも気づくきっかけになります。

交流から学ぶ:他の修習生・裁判所職員との関わり

裁判官だけでなく、書記官・事務官・同じ部に配属された修習生との関わりも、民事裁判修習の大きな財産です。
 
実務について親切に教えてくれる職員の存在を通じて、裁判所という組織全体の動き方や支え合いの構造を体感することができます。また、同じ事件に取り組む修習生同士で意見交換をする中で、自分にはなかった視点や論点の整理の仕方に触れられるのもこの期間ならではの学びです。

この修習で得られるのは、理論を“実務の言葉”に変える力。

判決起案を通して「法的思考を文章化する力」、裁判官室での議論を通して「他者と論点を整理する力」が育まれます。弁護士・裁判官・検察官のいずれの進路であっても、この経験が法的基礎体力の土台になることは間違いありません。

 

■家庭裁判所(家裁)修習:人の思いと法のはざまを見つめる実践期間

民事裁判修習の一環として、修習生は約1週間、家庭裁判所での修習も経験します。期間は短いものの、調停や審判といった“人と向き合う法実務”に直接触れられる、非常に濃密なプログラムです。

短期集中で体験する“家庭の法実務”

家裁修習は、民事裁判修習の合間に実施されます。主に家事調停や審判の傍聴に充てられ、民裁とはまた異なる“対話中心の法実務”を体感できます。
 
民事裁判の期日が数分で終わることも少なくないのに対し、家裁の調停期日は1件あたり1時間以上に及ぶことも珍しくありません。当事者間の話し合いがじっくり進められるため、1件1件の内容が非常に濃く、「人の心を扱う法の現場」を肌で感じることができます。

人間関係の中で揺れる現実に向き合う

家庭裁判所で扱うのは離婚、親権、相続、遺産分割といった家族に関わる紛争が中心です。書面では見えない当事者の声がそのまま語られる場面も多く、感情や価値観の違いが浮き彫りになります。
 
調停委員が双方の言い分を丁寧にくみ取りながら「折り合い」を探っていく姿に、法律をただ単に当てはめるだけでは不十分だということを実感するでしょう。
 
“どうすれば人が納得して前に進めるか”という視点を持つことは、将来弁護士や裁判官になるうえで非常に重要な気づきになります。

視野を広げる選択修習と家裁の価値

配属先によっては、後半の選択修習で再び家裁に戻ることも可能です。この期間はより自由度が高く、家裁調査官の調査業務の見学や、児童福祉施設の訪問、心理面接やテストの体験などを通じて、少年事件や福祉分野への理解を深める機会となります。
 
家裁修習の真の価値は、「人のための法律とは何か」を考え直すきっかけになることです。
短い期間ながらも、
 
・感情のある現実と法の折り合い
・紛争解決における共感の必要性
・弁護士としての“言葉の選び方”
 
といった感覚を身につけることができます。
 
家裁修習はまさに、“法と人のあいだ”を学ぶ時間。机の上の理屈を超えた現場の温度を、肌で知ることのできる1週間になるはずです。

■刑事裁判(刑裁)修習:証拠評価と量刑判断を体感

刑事裁判修習は、民事裁判修習と並ぶ司法修習の中核です。民裁と同様に、記録検討・裁判傍聴・起案を中心に進められますが、刑裁ならではの特徴として、修習生が裁判官・検察官・弁護士役に分かれて行う模擬裁判が実施されます。実際の法廷運営に近い形で手続きを体験できる、非常に実践的な修習です。

 

記録と法廷で学ぶ「事実認定」のリアル

刑事事件の記録は、民事と比べて構成が整理されており、起訴状から事件の全体像を把握しやすいのが特徴です。
証拠の配置にも一定のルールがあるため、「どの証拠がどの事実を支えるのか」を論理的にたどる作業に集中できます。実際、多くの修習生が「刑裁の記録は入りやすい」と感じるようです。
 
また、取り扱う事件からは、修習地ごとの地域性も垣間見えます。都市部では詐欺や薬物、地方では交通関連といったように、事件の傾向からその土地の“治安の風景”が浮かび上がるのも興味深い点です。
 
法廷では、民事とはまったく異なる緊張感があります。被告人が護送されて入廷する瞬間、証人が呼び込まれる場面、そして判決の言い渡し。その一つひとつに、「人を裁くこと」の重みが刻まれています。
 
傍聴後には、裁判官と訴訟手続や量刑判断について意見交換を行うのが一般的です。中には社会的関心の高い事件もあり、傍聴席が報道関係者や遺族で埋まることも。その場に立ち会うことで、「判断が社会に与える影響」を自分ごととして捉える契機になるはずです。

判決起案と講評:法律を「自分の言葉」で使う訓練

刑裁修習でも、民裁収集と同様、過去の事件記録をもとに判決起案を行い、裁判官からの講評を受けます。事実認定から法律構成、量刑理由に至るまで、自らの判断を文章としてまとめる作業を通じて、法的構造の理解と説得力のある記述力が鍛えられます。
 
講評では、論理の精度だけでなく、書きぶりや被告人への配慮、社会的視点など多角的な観点から指摘を受けるため、理論と実務のギャップを埋める貴重な機会になります。

模擬裁判で“法曹三者の視点”を疑似体験

刑裁修習のハイライトは、修習生が裁判官・検察官・弁護士に分かれて行う模擬裁判です。研修所が用意した記録をもとに、証人尋問や弁論、判決言渡しまでを一連で実施します。
 
事案の分析、主張立証の構成、尋問の準備などをチームで進めるため、実務での協働力や論理構築力が問われます。
 
役割ごとに求められる視点は異なり、検察官役では有罪立証の構成力、弁護人役では被告人の立場を守るための思考力、裁判官役では公平な判断と文書構成力が問われます。
 
模擬裁判を通じて、法律を「他人の言葉でなく、自分の言葉で使う」難しさと面白さに気づく人も多く、修習後の進路を考える上でも大きなヒントになるはずです。

■弁護修習:依頼者対応と弁護士業務を実践的に学ぶ

弁護修習は、分野別実務修習の中でも最も“弁護士のリアル”を肌で感じられる期間です。
修習生はそれぞれ1人ずつ、修習地にある法律事務所に配属され、担当弁護士の指導のもとで業務を体験します。
 
配属先によって取り扱う分野やスタイルが大きく異なるため、修習内容は一人ひとりまったく違ったものになります。

指導弁護士のもとで学ぶ日常と、その多様性

弁護修習の基本は、担当弁護士の業務に同行し、相談対応や書面作成、裁判への同行などを通して、弁護士の仕事を体感することです。事務所によっては起案に重点を置くこともあれば、依頼者対応や交渉に多く立ち会うこともあり、進め方はさまざま。
 
地方では幅広い分野をカバーする個人事務所、都市部では企業法務や知財など専門特化型の事務所に配属されることもあります。
 
また、弁護士との距離が近いため、日々の会話や雑談の中で、仕事の進め方や職業観に触れる場面も少なくありません。地域によっては“ランチ修習”や“飲み会修習”などの文化が根付いており、仕事以外での交流を通じて、弁護士という職業をより多面的に知ることができます。

主体性が問われる現場:修習を“深くする”工夫

弁護修習の魅力と難しさは、「何を学ぶかは自分次第」である点にあります。修習生が自ら「この書面を起案してみたい」「この分野に関わってみたい」と希望を出すことで、より実践的な体験が可能です。
 
また、弁護士会のイベントや勉強会に参加できる機会もあり、事務所の外に出て他の弁護士・修習生と交流する中で、視野も広がっていきます。修習生という立場もあって、多くの弁護士が親切に接してくれ、現場の工夫や実務感覚を直に学ぶチャンスに恵まれるのも弁護修習の特色です。

将来につながる視点:仕事の本質とキャリア形成

弁護修習では、法的知識の運用だけでなく、依頼者と信頼関係を築く姿勢、判断のスピード、現場での柔軟性といった“人と向き合う力”が試されます。書面の正確さだけでなく、「依頼者にとっての最善は何か」を考え抜く力が、日々の実務の中で鍛えられていきます。
 
さらに、配属先の事務所運営や働き方に触れることで、修習後のキャリア像が具体的に描けるようになる人も多くいます。主体的に動いた経験は、そのまま人脈や進路に直結することもあり、弁護修習はまさに「法を使って人を支える」職業の入り口を実感できる時間です。

■検察修習:取調べ・証拠収集・処分決裁を通して“事実を見抜く力”を養う

検察修習は、分野別実務修習の中でも最も実務に近い修習です。他の修習が「見学・傍聴」を中心に進むのに対し、検察修習では実際に自分が事件を担当し、被疑者の取調べや証拠収集を行うという大きな特徴があります。
 
法曹として「事実をどう認定するか」「どのように判断を下すか」を、自らの手で経験できる貴重な期間です。

事件を“動かす側”に立つ:証拠収集・取調べ

多くの修習地では、修習生2人1組で複数の在宅事件を担当します。万引きや住居侵入などの軽微な事件が中心ですが、記録を読み込み、証拠の整理や取調べ方針を自ら考え、実行に移す点で、非常に能動的な修習です。
 
証拠収集では、警察への連絡や現場確認なども行い、記録だけではわからない「距離感」「動線」「空気感」といったリアルな事実に触れます。そのうえで、被疑者への取調べを行い、事実確認のための質問を組み立てながら、感情のぶつかりや言い訳の中から核心を引き出す力が求められます。
 
この一連の経験を通して、「紙に書かれたストーリー」を追うのではなく、自分の目と耳で事実をつかむ姿勢が鍛えられていきます。

終局処分と決裁:判断の重みを体感する

取調べや証拠収集を終えると、終局処分(起訴・不起訴の判断)に進みます。修習生は、処分案を作成し、次席検事などの上司から決裁を受けるのが一般的な流れです。
 
この決裁は非常に緊張感のある過程です。事実の評価・証拠の信用性・量刑の見通しなどを、限られた材料から論理的に整理しなければならないため、「判断の重さ」を痛感する場面でもあります。
 
単に正しい答えを出すのではなく、社会的影響や人の人生を踏まえて考える。検察修習は、その感覚を磨く修習でもあります。

人との関わりが深まる:修習生同士と現場の空気感

検察修習では、修習生専用の部屋が用意され、互いに近い距離で作業を進めるため、自然と交流が生まれます。取調べや証拠整理の工夫を共有したり、同じ事件について意見交換したりすることで、実務的な刺激と人間的なつながりの両方が得られます。
 
また、修習地によっては他班との合同修習も実施され、多様な背景を持つ仲間と関わる機会にも恵まれます。この時期に築かれた関係は、修習後も長く続く“同業者ネットワーク”の原点となることが少なくありません。

■全国一斉起案:司法修習生全員が受ける実力試験

全国一斉起案は、分野別実務修習中に民事裁判・刑事裁判・検察の各クールでそれぞれ一度ずつ行われる、修習生共通の実力試験です。その名のとおり、修習地を問わず全国すべての修習生が同じ起案課題に取り組む形式で、ふつうはクールの最初に実施されます。
 
課題は各分野の実務に即した内容で構成されており、民事では「要件事実の認定」や「判決起案」、刑事では「事実認定」や「理由付けの説得力」、検察では「終局処分案の起案」などが出題されます。いずれも、事件記録を読み込み、自分の頭で考えた法的判断を文章として構築していく、本格的な起案訓練です。
 
試験当日は、朝から夕方まで庁舎内で缶詰。会話は禁止、庁外への外出もNG。昼食も持参で、起案を続けながらかきこむ人も多く、精神的にも体力的にも消耗する一日です。
 
全国一斉起案は成績評価の対象ではありますが、それ以上に重要なのは、法曹として必要な「記録を正確に読み、論理的に書く」スキルがどれだけ身についているかを自覚する機会であるということ。書けたつもりでも、伝わらない。思いついても、組み立てられない。そんな“現実”に、最初にぶつかる場でもあります。
 
起案の提出から数週間後には、司法研修所の教官による全体講評や、個別のフィードバックが行われます。自分の文章の強みと課題を客観的に把握できる貴重な機会であり、その後の修習の取り組みにも確かな影響を与えるはずです。

分野別実務修習の期間と修習地選びのポイント

分野別実務修習は、民事裁判修習(家庭裁判所修習)・刑事裁判修習・検察修習・弁護修習の4分野で構成され、全国の修習地でほぼ同じスケジュールで実施されます。
 
それぞれの期間や修習地ごとの特徴を把握しておくことは、修習生活を充実させるうえで非常に重要です。

■修習期間とスケジュールの概要

分野別実務修習は、導入修習(1月〜3月頃)を終えたのち、4月から11月にかけての約8か月間で実施されます。
 
修習生は「民事裁判」「刑事裁判」「弁護」「検察」の4分野をそれぞれ約2か月ずつ経験し、
全体を4つのクール(班)に分けてローテーションします。

 

修習分野

主な期間(目安)

内容の特徴

民事裁判修習

約2か月

判決起案・記録検討・法廷傍聴など。法的思考の基礎を学ぶ。

家庭裁判所修習もこれに含まれており、約1週間、調停の傍聴を中心に、家族法・人間関係に関わる紛争を学ぶ。

検察修習

約2か月

被疑者の取調べ・証拠収集・処分判断など、最も実務的な修習。

弁護修習

約2か月

法律事務所での研修。弁護士の実務と依頼者対応を体験する。

刑事裁判修習

約2か月

公判・起案・模擬裁判などを通じて刑事裁判手続を理解する。

 

※順番は修習生によって異なります。


 
また、各分野の修習の間には「全国一斉起案」などの研修所主催の共通カリキュラムが組み込まれています。このため、実務修習は個別の体験だけでなく、全国規模の教育プログラムとして体系的に設計されています。

修習地は全国に約50か所、それぞれに特色あり

司法修習は、全国に約50の修習地(地方裁判所所在地など)で実施されます。修習地の規模や地域によって、取り扱う事件の種類や環境は大きく異なります。
 
・東京・大阪などの都市部修習
企業法務や経済事件、知的財産関係など、専門的な事件を扱う機会が多いのが特徴です。
弁護修習でも、企業法務系の事務所や大規模事務所に配属される可能性が高く、実務のスピード感やチームワークを体感できます。
 
ただし、東京修習などは非常に人気が高く、希望しても通らないことが少なくありません。
 
・地方修習(地方都市・中規模庁)
民事・刑事・家事など幅広い分野を一人の裁判官や弁護士が担当するケースが多く、法曹としての「総合力」を学ぶのに最適です。修習生と裁判官・検察官・弁護士との距離も近く、実務家の人柄や判断過程を間近で感じられます。
 
・地方小規模庁修習(いわゆる“地方出張修習”)
担当事件数が少ない分、じっくりと事件を検討できるのが利点です。一方で、公共交通の便や生活環境に不便を感じることもありますが、実務家との密接な交流や地域に根差した法務の在り方を体験できる貴重な機会です。

■修習地の選び方と人気の修習地

分野別実務修習を行う「修習地」は、司法研修所が全国の地方裁判所所在地を中心に指定しています。修習生は、採用発令前に希望修習地を申請し、その希望を踏まえて最終的に研修所が決定します。
 
希望がすべて通るわけではありませんが、申請時の考え方や事情の伝え方によって結果が変わることもあります。

希望修習地の申請方法と決定の流れ

修習地は、第1希望から第6希望までを申請する形式で、グループ(地域群)ごとのルールに沿って選びます。

区分

主な修習地

備考

【第1群】

東京・大阪・名古屋・京都・神戸・横浜など

いわゆる“都市型修習地”。人気が非常に高い。

【第2群】

札幌・仙台・広島・福岡・金沢・熊本など

中核都市で、事件数と生活環境のバランスが良い。

【第3群】

地方都市(盛岡・松山・高知・宮崎・鹿児島など)

比較的希望が通りやすい。地域密着型の実務を学べる。

 

申請後は、司法研修所が修習生全体の人数・地域バランス・家庭事情などを考慮して最終的に配属を決定します。希望が通らないこともありますが、家庭の事情や健康面の配慮が必要な場合は、申請書に具体的に記載することで優先されることがあります。

 

人気修習地の傾向と特徴

人気の高い修習地は、例年ほぼ変わりません。特に東京・大阪・名古屋・沖縄は毎年倍率が高く、希望しても通らないことが多い地域です。
 
・東京修習
事件数・分野の広さともに圧倒的。企業法務や知的財産など専門分野を学びたい人に人気。
 
・大阪・名古屋修習
関西・中部圏の中心庁であり、司法修習生の人数も多い。多様な事件に触れられる。
 
・沖縄修習
美しい環境での生活と温かい人間関係に惹かれる修習生が多く、“思い出修習地”として知られる。司法試験上位合格者が選ぶケースも多い。

希望が通りやすい条件とコツ

一部の修習地は希望者が多く、特に東京修習などは定員に対して倍率が高めです。全希望者の中でも数割しか通らないケースも少なくありません。
 
ただし、次のような事情がある場合は希望が考慮されやすくなります。
 
・妻帯者・既婚者
家庭生活の安定を考慮し、配偶者の勤務地や居住地に近い修習地が優先されることがあります。
 
・家庭や健康上の事情
介護や通院など、生活に支障が出る事情がある場合は事前申請によって考慮されることがあります。
 
・地元希望
実家や地元への居住希望を理由にする場合も比較的通りやすい傾向があります。
 
また、明確な理由や将来設計を添えることも有効です。たとえば「将来、地元で弁護士として活動したい」「家族の介護を行いながら修習を続けたい」といった“納得感のある理由”があると、考慮されやすくなります。

■修習地選びは「キャリア+生活」の総合判断

修習地は、法曹としてのスタートを切る場所であり、同時に8か月近くを過ごす生活の拠点でもあります。事件の種類や研修内容だけでなく、住環境や人間関係、修習生の雰囲気なども大切な判断材料です。
 
特に地方修習では、指導担当者や同期との距離が近く、深い信頼関係を築けることが多い一方、都市部修習はネットワークの広がりや企業法務分野との接点が得られるなど、それぞれに魅力があります。
 
自分がどのような法曹を目指すのかを意識しながら、キャリア形成と生活環境の両面から修習地を選ぶことが、修習生活を充実させるポイントです。

先輩修習生が語るリアルな体験談

司法修習は、教科書だけでは得られない“現場の学び”に満ちています。
 
ここでは、実際に分野別実務修習を経験した先輩修習生たちの声を紹介します。印象に残った出来事や、悩み・工夫、全国一斉起案への備えなど、これから修習に臨む方が知っておきたいリアルな体験談をまとめました。

■法律事務所志望の先輩の声

20代・男性/法律事務所志望
 
① 分野別修習で印象に残った経験
分野別修習で特に印象に残ったのは、弁護修習である。弁護修習が最も能動的に動くことのできる修習だったため。準備書面・訴状の起案はもちろんのこと、内容証明、各機関に提出する報告書、少年事件の意見書などさまざまな起案をした。
 
弁護修習が特徴的なのは、起案した内容がダイレクトに反映される場合があるということであり、そのことが、さらにやる気を向上させるものであった。
 
② 修習中に悩んだこと・苦労したこと
裁判修習は裁判官室から基本出ない(傍聴を除く)ため、息が詰まりそうになったこともあった。裁判官にひっついて、できる限り傍聴に行った。
 
③ 事前準備しておくとよいこと
事前準備は不要である。やる気を持っていくと良い。
 
④ 全国一斉起案の対策
基本的に何も勉強していない。ただ、要件事実の復習、事実認定の方法の確認、終局処分の書き方などについては、前日とかに勉強していた。弁護士希望であれば、成績はどうでも良いためあまり勉強しないのではないか。
 
⑤ 後輩へのアドバイス
どの実務家もフレンドリーであるため、「やる気」が一番大事です。能力があっても「やる気」がなければ、見向きもされなくなると思います(みなさん忙しいため。)。逆に、多少の実力不足はやる気次第でどうとでもなります。

■検察官志望の先輩の声

20代・男性/検察官志望
 
① 分野別修習で印象に残った経験
検察修習で、執行猶予のない懲役刑を選択して起訴し、求刑通りの判決が確定したことが印象に残っています。検察修習中に刑務所見学もありましたので、自らの判断で人1人を懲役刑をもって処罰することの重大さを痛感しました。また、このような重大な結果を導くのが検察官の仕事ですので、それに至る過程が非常に重要なのだと感じました。ただ、行為に対する責任を取ってもらうのが刑事裁判の目的であるので、その目的を達成することの必要性も感じました。
 
② 修習中に悩んだこと・苦労したこと
検察事務官や裁判所書記官の役割の重要性や、各人の能力の高さに驚きました。実務を見て初めて彼らの存在を実感しますが、彼らがいないと司法は成り立たないと思うほど頼りがいがありました。
 
③ 事前準備しておくとよいこと
法廷でメモを取るのに、バインダーがあれば便利だと思います。また、警察署や拘置所、商工会、市役所その他外部の施設に行くときは、いちいち筆箱を出している暇や場所がなかったりするのでボールペンと小さいメモ帳をポケットに携帯しておくと便利です。
 
④ 全国一斉起案の対策
白表紙の復習です。どの科目(弁護は実施されません)もクールの頭に実施されますので、勉強時間は多くは取れないと思います。その中でできることは白表紙の復習ぐらいしかないと思いますし、それで十分だと思います。民裁や検察は起案の型がありますので、それを頭に入れた上で、要件事実や犯人性、刑法各論の勉強をするとよいと思います。任官希望者は少なくとも裁判起案ではAを取る必要がありますし、任検志望者もCは取らないようにしましょう。
 
⑤ 後輩へのアドバイス
教官は、起案はそれなりにやればいいと言いますが、そんなことはないと思います。任官任検志望者はある程度力を入れて勉強する必要がありますし、そうでなくても、この時点で少なくとも型を身につけるぐらいに勉強しておくと、集合修習の起案の勉強が楽になります。民裁・刑裁・検察の各クールの頭に起案がありますので、少なくともその日までは起案の勉強をする方がよいと思います。ただ、それが終わればあとは起案のことは考えずに実務を学ぶとよいでしょう。

■裁判官志望の先輩の声

20代・男性/裁判官志望
 
① 分野別修習で印象に残った経験
刑事裁判修習で事実認定について裁判官や同じ班の修習生と議論したことが印象に残っています。刑事の事実認定は、最初の内は若干強引に行ってしまい指導を受けることがありましたが、議論の経験を重ねて徐々に説得的な認定ができるようになり、自身の成長を感じました。
 
提出した起案を裁判官の方に参考にしますと言っていただいたときは、とても嬉しかったです。検察の取り調べのように、実際に裁判官の仕事を修習で行うことはできませんが、合議という裁判官の仕事の醍醐味に触れることができたのは良い機会でした。
 
② 修習中に悩んだこと・苦労したこと
民事裁判修習においては、思った以上に裁判官のカラーが訴訟の進行に反映されていると感じました。特に、和解勧試をどのように行うかは裁判官によってさまざまでした。
 
③ 事前準備しておくとよいこと
判例六法、判例六法プロフェッショナルはおすすめです。傍聴中も、即座に判例を学習でき、効率が上がります。また、全国一斉起案では判例六法のもちこみが許されており、必須でした。
 
④ 全国一斉起案の対策
白表紙を読み込み、起案に備えました。起案には、型がありますが必ず白表紙で確認するようにしてください。導入修習中のパワーポイントによる起案解説も参考になります。これらを押さえて余裕があるときは小問の対策を行っていました。
 
⑤ 後輩へのアドバイス
分野別修習は、勉強半分体験半分の面白い修習です。どちらかに偏ることなく修習を進めることをおすすめします。

まとめ:修習生活を充実させるには?体験談・求人情報をチェック

分野別実務修習は、司法修習の中でも最も長く、そして密度の高い期間です。民事裁判・刑事裁判・検察・弁護の各分野を通じて、実際の法曹の仕事を体感し、自身の将来像を具体的に描くことができます。どの分野でどんな経験を積むかによって、進路やキャリアの方向性が大きく変わることも。
 
修習をより充実させるためには、先輩修習生の体験談や現場の声を知っておくことが大きなヒントになります。リアルな体験談から、修習中の心構えや学びの深め方を知ることで、より有意義な時間を過ごせるでしょう。
 

司法修習生向けの体験談・求人情報はこちら

修習生の体験談や、修習後に応募できる求人情報も掲載しています。

 

中澤 泉(弁護士)

弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。 事務所勤務時にはウェブサイトの立ち上げにも従事し、現在は法律分野を中心にフリーランスのライター・編集者として活動しています。

C&Rリーガル・エージェンシー社
による求人紹介はこちら

専任のエージェントが
あなたの転職活動をサポート

お役立ち情報・コラム カテゴリ一覧

C&Rリーガル・エージェンシー社
による求人紹介はこちら

専任のエージェントが
あなたの転職活動をサポート

TOP