業界トピックス

弁護士はどうやってワークライフバランスを確保すべきか?

目次
  • 1.ワークライフバランスとは

  • 2.弁護士の働き方

  • 3.弁護士がワークライフバランスを実現させるコツ

  • 4.弁護士の勤務先別ワークライフバランスの傾向

  • 5.まとめ

1.ワークライフバランスとは

 日本では、少子高齢化に伴い労働人口そのものが減少する中、若者、女性、高齢者の労働市場への参加を促すことが必須になっています。その実現のため、「働き方改革」と称して、仕事と生活に関する多様な価値観への対応、過酷な労働環境の改善、出産・育児・介護といったライフイベントに左右されずに働き続けられる企業体制の構築などが進められてきており、この流れの中で、「仕事と生活の調和」すなわちワークライフバランスが重視されてきています。

2.弁護士の働き方

 勤務時間の固定されているインハウスローヤーを除けば、弁護士のワークライフバランスは良いとは言えないと思われます。
 例えば、法律事務所勤務の場合、1日の労働時間は平均して10時間以上の弁護士も多いようですが、本来、弁護士の報酬は労働時間に応じて支払われるものではないので、「残業」という考え方にもなじみません。書面の起案やメールのやりとりのような法律事務所外でもできる仕事が多い分、やるべきことがあれば深夜・休日を問わず働くことになります。
 また、法律事務所の垣根を越えて様々な弁護士が集まる弁護団の会議や、弁護士同士の有志が開催する勉強会などは、通常の業務時間を避けて夜間や土日祝日に開催されることも少なくありません。
 事件の受任について裁量がある立場の弁護士であれば、受任件数を減らすことで労働時間の短縮を図ることはできますが、その場合は収入も減るというジレンマを抱えることになります。
  
 また、改善されつつあるとはいえ、業界全体としてみると、子育てをしながら働く環境が整っているとは言い難いのが実情です。固定給で働いている弁護士以外は、出産・育児で稼働しない時期の収入は激減します(場合によってはゼロになります)し、独立開業している場合は賃料や人件費といった必要経費の分だけ赤字になることさえあります。
 日弁連では育児期間中の会費免除制度が用意されていますが、そもそもこの制度が始まったのは2015年になってからのことであり、免除期間も6か月にとどまります。一般社会に比べ、弁護士業界は子育て世代に対する働き方改革が極めて遅れているといわざるを得ないでしょう。このため、出産を機に法律事務所から企業のインハウスローヤーに転向する弁護士も多くいます。
 もっとも、司法制度改革に伴い女性弁護士の数は年々増加していますし、男性の育児参加への意識も高まっており、これから改善されていく可能性は十分にあります。実際、法律事務所の中には弁護士の産休・育休制度を取り入れているところもあり、今後このような動きが広がることが期待されます。

3.弁護士がワークライフバランスを実現させるコツ

 弁護士がワークライフバランスをとることが難しい原因は、業務の性質によるところが大きいといえます。
 刑事事件の起訴前弁護や家事事件のDV案件など、短時間で多くの作業を行わなければならなかったり緊急対応が必要な場面もあります。大手企業法務系法律事務所や外資系法律事務所のように外国企業のクライアントを持つ場合には、外国時間に合わせて会議を行うこともあります。初めて扱う案件や前例のないケースを担当するにあたっては、時間をかけてリサーチをすることも必要です。また、どのような環境で働くかに関わらず、質の高いサービスを提供し続けるためには常に一定の勉強時間を設けて法改正や最新判例、業界の重要トピックを把握することが欠かせません。

 では、弁護士がワークライフバランスを実現するにはどうすればよいのでしょうか。
 まずは、ご自身にとっての「ワークライフバランスの取れた働き方」というのが何かを考えてみる必要があります。例えば、
・保育園の送迎があるため帰宅時間を早くしたいが、子供が寝た後にデスクワークをすることは問題ない
・忙しくてよいのでとにかくしっかり稼ぎたい
・平日は遅くまで働いてもいいが、土日はしっかり休みたい
・決まった勤務時間以外はできるだけ残業をしたくない
・年に1~2回はまとまった休みが欲しい
・出張は少ないほうがいい
など、じっくり考えていくと、いろいろと希望が出てくるかと思います。ライフステージが変われば重視するポイントも変わってくると思いますので、まずはご自身の希望をしっかりと認識することが必要です。

 その上で、その希望に合った制度が用意されている法律事務所・企業であるのかを、転職活動の中できちんと確認していきましょう。具体的には、平均就労時間、出張(国内・海外)の頻度、繁忙期の状況、有給や時短制度の内容と取得実績などをチェックすることが重要です。法律事務所に勤務する場合は、受任に関してどの程度の裁量があるのかもポイントになります。報酬(給与)額のみで判断するのではなく、様々な角度から検討してみてください。

4.弁護士の勤務先別ワークライフバランスの傾向

(1)企業法務系の法律事務所

 企業法務系(大手渉外事系や外資系)の法律事務所は、大規模事務所になればなるほど忙しいです。いわゆる五大法律事務所であれば、深夜2、3時頃の帰宅になるのが当たり前とも言われています。
 土日についても、どちらか片方は終日出勤(またはどちらも半日ずつ出勤)というイメージで、特に若手のうちは数日単位でまとまった休みがとれるのは年末年始くらいであると覚悟したほうがいいでしょう。
 準大手と呼ばれる規模の法律事務所の場合であっても、平日の帰宅は終電前後くらい、土日のどちらかは出勤するというのが一般的です。21時くらいに帰宅できるという事務所は極めて稀だと思ってください。
 これらの事情は、どのパートナーの下に配属されるかによっても変わりますし、ご自身である程度コントロールできる場合もありますが、大規模事務所でパートナーになるような弁護士は、若手の間(特に留学前)はひたすら仕事に邁進していることが多いようです。

(2)一般民事系の法律事務所

 一般民事系の法律事務所は規模も働き方も千差万別で、一概に評価することは難しいですが、執務時間としては12時間程度(10時~22時または9時~21時)のところが多い印象です。家事事件のDV案件や刑事事件を受任したとき、顧問先でトラブルがあったときなどには、一時的に忙しさが増すこともあります。
 時短勤務については法律事務所ごとに方針が違いますが、時短勤務自体は許容しているところが多く、その期間や期間中の扱いについて方針が分かれます。

(3)ブティック系法律事務所

 ブティック系法律事務所の場合も一般民事系と同様に千差万別と言えます。ただし取扱い分野が専門特化している分だけ、複雑な案件や、より質の高い業務が求められる案件が入ってくる頻度が高まると思われますので、その分忙しくなりやすいかもしれません。場合によっては準大手規模の企業法務系法律事務所に相当するような忙しさのこともあるようです。

ブティック系法律事務所への転職について

(4)企業内弁護士・企業法務部

 会社の規模や役職にもよりますが、概ね所定の労働時間は8時間(うち1時間は休憩)です。平均残業時間は月に20~30時間というところが多数で、10時間を切るところは珍しいでしょう。大企業の場合、株主総会の時期や大きなM&Aを行う場合などは繁忙期となり、一時的に月の残業時間が50時間を超える場合もありますが、36協定があるため無茶な働き方にはならないことが多いです。
 最近では、フレックス勤務や在宅勤務の制度を運用する企業も増えてきているため、ライフステージに合わせて働き方を調整しやすいといえます。もっとも、管理職や役員になると自由度は低くなる傾向があります。
 産休・育休や育休後の時短勤務は制度として構築されているところがほとんどで、これ以外にも慶弔休暇、生理休暇、介護休暇などといった各種休暇制度が設けられている会社が多いようです。なお、初年度から利用できるとは限りませんし、制度の立て付けと実際の運用状況が異なる場合(例えば、フレックス勤務の制度はあるが、求人部門では実際運用をしていない場合)も無きにしもあらずですので、事前に十分情報収集を行うとよいでしょう。

5.まとめ

 弁護士業界においても、ワークライフバランスを意識する風潮が広まりつつありますが、転職活動の際には「どこまで希望していいのか」「ワークライフバランスを重視すると収入が大きく減ってしまうのではないか」など、疑問に思うことも多いと思います。
 C&Rリーガル・エージェンシー社には、様々な世代の転職を多数サポートしてきた実績があります。最新の動向を踏まえてアドバイスをさせていただきますので、担当エージェントにお気軽にご相談ください。

企業内弁護士(インハウスローヤー)の現状

記事提供ライター

社会人経験後、法科大学院を経て司法試験合格(弁護士登録)。約7年の実務経験を経て、現在は子育て中心の生活をしながら、司法試験受験指導、法務翻訳、法律ライターなど、法的知識を活かして幅広く活動している。

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