【79期向け】司法修習における選択型実務修習の内容・流れ・カリキュラムを徹底解説│修習地による違いと最近の傾向や、先輩方の声も紹介
- INDEX
-
-
選択型実務修習とは?
-
選択型実務修習の3つのタイプ
-
ホームグラウンド修習とは
-
修習地による違いと最近の傾向
-
選択型実務修習の流れ(全体スケジュール)
-
先輩修習生の声・実際の体験談
-
修習を終えたら次のステップへ
-
司法修習の終盤、進路選択にも大きく関わるのが「選択型実務修習」です。
とはいえ、初めて耳にする人にとっては、その内容や進め方は少しわかりにくいもの。
このコラムでは、選択型実務修習の制度概要や参加までの流れ、修習地による違いや具体的なプログラム例、さらには実際に経験した先輩修習生のリアルな声までを詳しく紹介します。
自分に合った修習プランを立てるヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。
選択型実務修習とは?
選択型実務修習は、司法修習の集大成として、修習生自身が興味や将来のキャリアに応じて実務分野を「選んで学ぶ」制度です。A班は集合修習の後、B班は集合修習の前に、それぞれ約2か月間にわたって実施されます。
この期間中、修習生は自らの関心分野に沿って修習プログラムを組み立て、主体的に学びを深めていきます。将来の進路を見据えて、実務の現場を選び取るプロセスそのものが、キャリア設計の一環とも言えるでしょう。
プログラムが実施されない日は、弁護修習でお世話になった法律事務所に戻り、「ホームグラウンド修習」として実務経験を積みます。これは単なる“空き日”ではなく、実践を通じてスキルを磨く大切な時間です。
制度の目的は、分野別実務修習で得た知識や経験をさらに深め、修習生が自らのキャリア形成を能動的に進めていくこと。この期間の過ごし方次第で、その後のキャリアの輪郭が大きく変わることも少なくありません。
選択型実務修習の3つのタイプ
選択型実務修習は、大きく次の3種類に分かれます。いずれも、修習生自身の関心やキャリアプランに応じて選ぶことができます。
■各修習地での個別プログラム
各地の裁判所・検察庁・弁護士会が提供する地域ごとの実務プログラムです。全国プログラムに比べて倍率が低めで、比較的希望が通りやすい傾向にあります。
【代表的なプログラム例】
■裁判所
・行政部・破産再生部・労働部・医療集中部・家事部など専門部での実務体験
・民事執行・保全事件、建築調停、租税事件の模擬起案
■検察庁
・特殊事件・脱税事件などを扱う実務班の体験
・公判準備・捜査書類作成・取調べ見学
■弁護士会
・子どもの権利・DV・セクハラ・LGBT・外国人支援・環境・消費者事件・ADRなどの分野別講座
期間は1日〜2週間程度のものが中心。なかには、複数の庁が合同で実施する「三庁会合同プログラム」もあり、模擬裁判形式の研修が人気を集めています。
■全国プログラム
全国の修習生を対象とした特別なプログラムで、法務省や最高裁、法テラス、企業の法務部などが受け入れ先として参加します。内容はより専門的かつ実務的で、実施期間も1週間〜10日程度とやや長めです。
【代表的なプログラム】
・東京地裁・大阪地裁の知的財産専門部での実務研修
・国会での立法過程体験
・企業のインハウスロイヤー研修
・行政機関(法務省、厚労省、国税不服審判所など)での行政実務研修
各プログラムの募集枠は数名程度と少なく、志望理由書や語学スコアの提出が求められる場合も。書類選考や抽選もあるため、早めの準備と応募が不可欠です。
■自己開拓プログラム(自己開発型)
これは、修習生が自分で研修先を探して申請する、いわば“フルオーダーメイド型”の実務修習です。対象となるのは、企業法務部、自治体の法務課、報道機関の社会部、民間ADR機関など、法曹活動と密接に関連する機関に限られます。
自己開拓プログラムを受けるには、次のステップを踏まなければなりません。
① 修習生が自ら受け入れ先候補を調査・アポイント取得
② 修習内容や目的を具体的に記載した「申出書+日程表」を作成
③ 各配属庁会の司法修習生指導連絡委員会が審査・承認
④ 承認後、受け入れ先代表者から承諾書を取得し、提出して初めて実施可能
なお、次のような注意点もあります。
・就職予定先での修習は不可。(試用期間的活動にあたるため)
・顧問先企業であっても、実質的に就職活動・弁護士業務にならないよう注意が必要。
・配属地外での実施は原則不可。全国プログラムとあわせても最長3週間まで。
実際に、東京修習の修習生が沖縄の法律事務所で自己開拓修習を行ったケースもあるなど、工夫次第でユニークな経験が可能です。
ホームグラウンド修習とは
選択型実務修習の期間中、プログラムのない日や空いた期間には、弁護修習先の法律事務所に戻り、通常業務の補助などを行うのが「ホームグラウンド修習」です。
原則として、選択型実務修習の期間中に、少なくとも連続5日間の弁護修習を行うことが求められています。ただし、複数のプログラムを組み合わせた結果として連続日数が確保できない場合でも、合計5日程度の弁護修習があれば違反とはされません。
この期間中に行う業務は事務所によってさまざまですが、起案の練習や打合せへの参加、少年事件の同行など、日々の弁護士実務を間近で体験できる貴重な機会となります。
また、修習生の中には、空き時間を使って二回試験の勉強や集合修習の復習に取り組む人も。実務経験の蓄積だけでなく、自分の理解を深め直す時間としても、有効に活用されています。
修習地による違いと最近の傾向
選択型実務修習は全国共通の制度ですが、実際に体験できる内容や選択肢は修習地によって大きく異なります。その背景には、裁判所・検察庁・弁護士会の規模の違いや、地域ごとの法的ニーズの差があります。
■都市部と地方での違い
東京・大阪・名古屋などの大規模修習地では、裁判所や弁護士会、さらには企業などによる提供プログラムが豊富に揃っており、幅広い分野から希望に沿った研修を選びやすいのが特徴です。
特に東京では、知的財産や企業法務、国際取引、金融法務、労働、倒産、行政訴訟などといった専門分野別のプログラムが多数用意されており、全国プログラムに匹敵するレベルの実務研修を受けられるケースもあります。
一方、地方修習地では、提供されるプログラム数は限定的な傾向にありますが、地域ならではの特色を活かした実務体験が可能です。たとえば、地元テレビ局の取材現場や刑務所の見学など、より地域密着型の法実務に触れられるプログラムが組まれることもあります。
■自己開拓プログラムの許可基準は厳格化
全国・個別プログラムが充実した現在、裁判所が「なぜ自己開拓でなければならないのか」を厳しく見る傾向があります。
「なんとなく興味がある」「既存プログラムより雰囲気が良さそう」といった動機では認められにくく、既存の選択肢ではカバーできない具体的な理由や目的を明確にする必要があります。
選択型実務修習の流れ(全体スケジュール)
選択型実務修習は、ただ参加するだけでなく、事前準備から終了後の報告まで含めた「ひとつのプロジェクト」のような流れになっています。以下がその基本的なステップです。
① プログラム案内の公開・応募開始(集合修習前後)
各配属庁や全国プログラムの募集要項が順次公開されます。修習生は内容を確認しながら、自分の関心分野や進路を踏まえて応募先を検討します。
② 応募・選考
希望するプログラムに対して、志望理由書や履歴書、語学スコア、課題レポートなどを提出します。人気プログラムは倍率が高く、書類選考や抽選、面接が行われることもあります。
③ 選考結果の発表・修習計画書の作成
選考結果をもとに、ホームグラウンド修習の日程も含め、全体の予定を整理し、指導担当弁護士との調整を経て「修習計画書」を提出します。
④ 選択型実務修習の実施(約2か月)
1つのプログラムはおおむね2週間程度が目安。複数のプログラムを組み合わせて履修するのが一般的です。プログラムがない日には、ホームグラウンド修習を行います。
⑤ 修習レポート・結果意見書の提出
修習が終わったら3日以内に報告書(修習レポート)を作成し、配属庁会に提出します。
⑥ 評価・フィードバック
指導担当者が提出した評価意見をもとに、司法研修所が全体の成績に反映させます。
先輩修習生の声・実際の体験談
実際に選択型実務修習を経験した先輩修習生たちは、どのようなプログラムを選び、何を感じたのでしょうか。それぞれの現場でのリアルな体験談を紹介します。
■全国プログラム:普段見られない現場を体験できる貴重な機会
全国プログラムは、配属地を越えて参加できる特別な研修。日常の修習地では得られない実務経験を積める機会として、多くの修習生が志望しています。
筆者自身も岐阜修習の際、函館の法テラスで2週間の全国プログラムに参加しました。函館は法律事務所の数が限られており、地域の法的支援は法テラスが中心的な役割を果たしています。修習期間中は、日々ひっきりなしに相談者が訪れており、その多くが経済的に厳しい立場の方々でした。
相談内容の中には、法的な手続きではすぐに解決できないものも少なくありません。それでも、担当の弁護士が一人ひとりに真摯に向き合い、親身に話を聞きながら丁寧に助言していく姿を目の当たりにし、深く感銘を受けました。相談を終えた方がほっとした表情で帰っていく様子を見て、法曹の持つ社会的な意義を強く実感したのを覚えています。
岐阜のホームグラウンド修習先では、比較的経済的に余裕のある依頼者が多く、そのギャップも非常に印象的でした。社会的背景や経済状況によって、法的ニーズの現れ方が全く異なることを実感したのです。
勤務時間外にも、担当弁護士の先生に函館山の夜景を案内していただいたり、地元の名物料理をごちそうになったりと、地域との交流も得難い思い出になりました。短い期間ではありましたが、「地域の法的支援を支える実務」を肌で感じたこの経験は、法曹としての使命感を一層強くする貴重な機会となりました。
■個別修習プログラム:専門分野の理解を深める実践的な学び
個別修習プログラムは、各地の裁判所・検察庁・弁護士会などが主催する専門実習です。特定の法分野を深めたい修習生や、実務経験を補いたい修習生が多く参加します。
たとえば、ある修習生は債権者集会の傍聴や執行立会いを経験し、「破産や執行について具体的なイメージを掴むことができて勉強になった」と語っていました。
また、交互尋問実習に参加した修習生は、「模擬記録を手に証人テストを行い、裁判所の大法廷で実際に交互尋問を行いました。裁判官や弁護士の前で一人ずつ尋問を披露し、細かなアドバイスを受けました。恥ずかしい思いもしましたが、自分の弱点が明確になり非常に成長できたプログラムでした。」と振り返っており、実践の中で自分の課題を見つける機会として有意義だったことが伺えます。
さらに、破産法の講義に参加した修習生は、「破産法基礎を中目黒の庁舎で受けました。債務整理事件全体の流れや免責不許可事由など、これまで曖昧だった部分が整理できました。」との感想を抱き、実務に直結する知識を補強できる機会として評価していました。
■自己開拓プログラム:自ら機会をつくる挑戦
自己開拓プログラムは、修習生自身が興味のある分野・機関を探し、交渉して修習先を確保する制度です。主体性が問われる分、得られるものも大きいプログラムです。
ある修習生は、地元企業の法務部に自ら連絡を取り、修習プログラムを企画しました。「自己開拓プログラムも提出しました。会社にて修習するプログラムを企画し、受け入れ先との間で調整し、申し込みました。」と話し、その理由を次のように振り返ります。
「地元の会社にて申し込んだのは、これから先弁護士として働く上で、会社での働き方や会社内の弁護士の業務内容を知りたかったためです。」
さらに、「自己開拓先では、実際に社内での問題や取引先との関係で発生する法律上の課題を考えさせられる機会があり、非常に実務的でした」との感想も。
企業法務の現場を間近で見る経験は、弁護士としてのキャリア形成にも大きな影響を与えています。
■東京と地方での違い:多様な専門性と地域密着の学び
修習地によって、得られる経験にも大きな違いがあります。東京修習生は、プログラムの多様性や専門性の高さを実感している一方、地方修習生は、実務の密度や地域との近さを強みに挙げています。
東京の修習生は、「弁護士会と検察庁、裁判所が提供するプログラムを受けました。単に講義を受けるだけのものや、見学するだけのプログラムもありますが、より実務的なプログラムを受けるよう心がけました。」と語り、都心ならではの選択肢を活用しています。
一方、地方の修習生からはこんな声も。
「熊本の支部修習として、阿蘇の法律事務所に行きました。後見の仕事や同性婚の弁護士団の活動を見ました。また、地方銀行での修習では、銀行の業務一般について講義していただきました。」地域に根ざした現場で、法律実務がどのように人々の生活を支えているかを実感できたとのことです。
それぞれの修習地の特色が、法曹としての視野の広がりに直接つながっていることが伺えます。
■修習を終えた先輩からのメッセージ
選択型実務修習を経験した先輩たちは、修習を振り返って口をそろえてこう語ります。
「修習生の立場でしか見れない聞けないことがたくさんあるので、貪欲に取り組んでください。」
「希望どおりのプログラムに入れなくても、どの経験も必ず糧になります。」
「短い期間の中で多様な分野に触れ、自分の興味関心を形にしていくことが大切です。」
選択型実務修習は、自分の進路や価値観を見つめ直す絶好の機会です。
自らの関心を軸に積極的に行動し、限られた期間を最大限に活かすことが、法曹としての第一歩につながるでしょう。
修習を終えたら次のステップへ
司法修習を通じて、多くの修習生が実際の現場に触れながら、自分なりの「法曹としての原点」を見つけていきます。
選択型実務修習では、法テラスでの相談対応、企業法務の現場体験、裁判所での尋問実習など、どれも修習生にとって一生忘れられない学びとなっています。
こうした体験談を読むことで、「挑戦してみたい分野」や「今後のキャリアの方向性」が見えてくることもあるでしょう。C&Rリーガル・エージェンシー社の「大学生・法科大学院生・司法修習生のキャリア支援サイト」では、先輩修習生のリアルな声や体験談が多数紹介されています。
興味のある分野の求人情報もあわせてチェックしておくと、修習後の選択肢がぐっと広がります。修習をきっかけに、新しいステージへの第一歩を踏み出してみてください。