業界トピックス

弁護士の専門分野はどう選ぶ?キャリアを左右する考え方

INDEX
  • そもそも「専門分野」とは何か

  • 弁護士は専門分野を選ばなければならないのか

  • 専門を選んだら、それ以外の分野は扱えなくなるのか

  • 専門分野は途中で変えられるのか

  • インハウス弁護士の「専門」の考え方

  • 弁護士が専門分野選びで陥りがちな失敗パターン

  • 市場で評価されやすい専門性の考え方「掛け算」で捉える

  • 専門分野はどうやって"決まっていく"のか

  • 専門分野と転職の関係

  • 専門分野は「決めるもの」ではなく「育てるもの」

「弁護士として、専門分野は早く決めたほうがいいのでしょうか」。修習生やロー生、若手弁護士のあいだで、こうした疑問を抱える方は少なくありません。
 
SNSや就職活動の場では「これからは専門性の時代」「ジェネラリストでは生き残れない」といった声も目にします。
 
結論から言えば、弁護士は必ずしも早い段階で専門分野を一つに絞る必要はありません。ただし、どのような弁護士キャリアを目指すかによって、「専門」の考え方は大きく変わってきます。
 
本記事では、専門分野の捉え方、選び方、そして変え方について整理します。専門分野を選ぶことを推奨する記事ではなく、自分にとっての「専門」とどう向き合うかを考えるための一つの視点として読んでいただければと思います。

そもそも「専門分野」とは何か

「私は◯◯法務ができます」と名乗ること自体は誰でもできます。しかし、転職市場やクライアントから見たときの「専門分野」とは、もう少し具体的な要素から構成されています。
 
具体的には、どんな案件を/どのレベルまで/どの立場で/何件・どれくらいの期間担当してきたか。この四つの要素の組み合わせです。
 
たとえば「M&A法務の経験あり」と一言で言っても、ジュニアとしてデューデリジェンスの一部を担当した経験と、案件全体を統括して交渉の前面に立った経験とでは、市場価値はまったく異なります。

ジェネラリストと専門家は対立概念ではない

ここで強調しておきたいのは、ジェネラリストと専門家は対立する概念ではない、ということです。
 
特に若手のうちは、幅広い案件を経験する中で、自分の興味や適性、得意分野を見極めていくことが重要です。そして、キャリアを重ねるにつれて、担当件数が多い分野、周囲から任されやすい分野、自分が比較的ストレスなく取り組める分野が見えてきます。その積み重ねが、結果として専門性になっていきます。

弁護士は専門分野を選ばなければならないのか

結論から言えば、弁護士が専門分野を選ばなければならないという決まりはありません。実際、特定の分野に絞らずに幅広く扱い続ける弁護士もいれば、ある程度の軸を持ちつつ周辺分野も扱う弁護士、明確に一つの分野を深掘りする弁護士もいます。
 
ただし、目指す弁護士像によって最適な選択は変わります。「専門を持たない」という選択にも、「持つ」という選択にも、それぞれの強みと難しさがあります。大切なのは、自分がどんな弁護士になりたいか、どんな働き方をしたいかを起点に考えることです。
 
自分に合うスタイルを考えるうえで、まずは弁護士のキャリアにどのような型があるのかを知っておくと整理しやすくなります。ここでは、代表的な三つのパターンを紹介します。

ケース1:幅広く扱う「街弁(マチベン)」の道

地域に根ざした法律事務所では、離婚や相続、交通事故、労働問題、債務整理、中小企業の相談など、個人や地域企業から寄せられるさまざまな相談に対応することがあります。
 
このような働き方は、「専門性がない」というよりも、相談者の抱える問題を横断的に把握し、必要に応じて適切な解決策につなげる力が求められるキャリアです。地域住民にとっての「最初の相談先」になれるという強みもあります。
 
もっとも、すべての案件を一人で抱え込む必要はありません。自分の経験や知見だけでは対応が難しい分野については、その分野に詳しい弁護士と協業したり、信頼できる専門家を紹介したりすることもあります。

ケース2:軸を持ちながら幅広く扱う「民事全般」「企業法務全般」

専門分野というと、特定の分野にかなり細かく絞るイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし実際には、「民事事件全般」「企業法務全般」のように、一定の軸を持ちながら幅広い案件を扱うキャリアもあります。
 
たとえば、民事事件を中心に、離婚や相続、交通事故、不動産、労働問題などを幅広く扱う弁護士もいます。また、企業法務を中心に、契約書レビューや労務対応、取引先とのトラブル対応、社内規程整備、株主総会対応などを横断的に担当する弁護士もいます。
 
このようなキャリアでは、特定分野を深掘りする専門性だけでなく、複数の分野にまたがる問題を整理し、依頼者や企業の状況に応じて必要な対応を判断する力が評価されます。

ケース3:明確に専門を絞る、ブティック型・大手のプラクティスチーム

一方で、より明確に専門分野を絞っていくキャリアもあります。
 
知的財産や労働、倒産、M&A、ファイナンス、国際取引、医療訴訟など、特定分野を中心に扱うブティック型の法律事務所や、大手法律事務所のプラクティスチームで経験を積む場合です。
 
このような環境では、特定分野の案件に継続的に関与できるため、比較的早い段階から深い専門性を身につけやすいというメリットがあります。転職市場でも、募集ポジションのニーズと経験分野が合えば、専門性を明確に評価されやすくなります。
 
もっとも、専門分野を細かく絞るほど、応募できる求人やキャリアの選択肢が限定される場合もあります。

専門を選んだら、それ以外の分野は扱えなくなるのか

専門分野を持つことは、「その分野以外を一切扱わない」という意味ではありません。
 
実際には、どの分野でも関連する法律問題に横断的に関わることが多く、専門分野だけで業務が完全に独立しているケースはそれほど多くありません。
 
たとえば、離婚案件を多く扱う弁護士であっても、財産分与に関連して不動産や相続の問題が出てくることがあります。交通事故案件でも、後遺障害や労災、保険、労働能力喪失など、周辺分野の知識が必要になる場面があります。
 
企業法務でも同様で、契約法務を中心に扱っていたとしても、労務問題や個人情報保護、知的財産、下請法、株主対応など、複数の論点が関係することは珍しくありません。
 
また、所属事務所の業務以外に、個人受任や国選弁護などを通じて別分野の経験を積む弁護士もいます。
 
専門分野とは「他分野を排除するもの」ではなく、自分の中心となる経験領域や、比較的多く扱ってきた分野を示すものと考えるとよいでしょう。

専門分野は途中で変えられるのか

一度経験した分野を、その後ずっと続けなければならないわけではありません。弁護士になってから専門分野を変えていくケースも、実際には少なくありません。

転職せずに変える場合

現在の事務所に残りながら専門分野を変えていく場合、所属している事務所のタイプによって、その難易度はかなり異なります。
 
たとえば、小規模で何でも扱うタイプの事務所であれば、ボス弁や兄弁・姉弁と共同で新しい分野の案件を担当させてもらえることもあります。指導を受けながら経験を積めるため、未経験の分野でも比較的スムーズに移行しやすい環境です。
 
担当分野がチームごとに分かれている事務所では、社内異動という選択肢もあります。たとえば、離婚を中心に扱っていた弁護士が、交通事故チームへ異動するようなケースです。最初の一定期間は両方を並行して担当し、徐々に新しい分野に軸を移していく、というスタイルもよく見られます。
 
一方で、ブティック型の事務所や、大規模事務所で特定のプラクティスチームに配属されている場合は、所内で専門を変えるのは難しくなりがちです。事務所の業務構成自体が特定分野に特化しているため、希望する分野の案件そのものが社内にない、というケースも珍しくありません。
 
事務所内での調整が難しい場合でも、個人受任や国選弁護を通じて、新しい分野の経験を積んでいくという方法はあります。所属事務所の業務と並行して、関心のある分野の実務経験を少しずつ蓄積していくイメージです。

転職によって変える場合

ここまで見てきたように、所属事務所内での専門変更には限界があります。事務所のタイプによっては動きにくいケースもありますし、個人受任で経験を積むにも時間がかかります。
 
専門分野をガラッと変えたい場合は、転職を選ぶほうが現実的です。担当する案件も、関わるクライアントも、相談される論点も、一気に切り替えることができます。
 
ただし、未経験分野への転職のしやすさは、年次によって変わってきます。
 
一般的には、5年目くらいまでであれば、大きな専門変更も比較的視野に入れやすいでしょう。未経験分野への挑戦は厳しい道にはなりますが、過去の専門性よりもポテンシャルや基礎能力を評価してもらいやすい時期だからです。伸びしろを見込んで採用してくれる事務所や企業は少なくありません。
 
それ以降の年次になると、実績が評価の中心になるため、専門を大きく変えるのはハードルが上がります。ポジションの数が限られる、転職できても年下の上司の下につくことになる、早くキャッチアップしなければと焦る場面が出てくる、などの現実は覚悟しておきたいところです。とはいえ、不可能ではありません。
 
たとえば、7年目の民事弁護士が総合事務所に転職し、まずは民事領域で貢献しながら、未経験の企業法務にも徐々にチャレンジしていく、という移行の仕方があります。「できる分野から足場を作り、やりたい分野へ徐々に軸足を移す」という現実的なステップを踏むパターンです。
 
また、10年目の民事弁護士が未経験可のインハウスポジションに転職するケースでは、専門分野の一致よりも「弁護士という資格」そのものが評価されることがあります。リーガルマインド、法律的な物事の見方、地頭の良さといった素養が採用理由になるパターンです。
 
専門分野は一度決めたら固定されるものではなく、経験や環境の変化に応じて調整・発展させていくことも可能です。

インハウス弁護士の「専門」の考え方

インハウス(企業内弁護士)の場合、「企業法務」という大きな括りでまとめられがちですが、その中身は決して一様ではありません。実際には、「業界・事業」と「業務ジャンル」の二つの軸で専門性が形作られていきます。

軸①:業界・事業による専門性

一つは、所属する企業の業界や事業内容です。業界特有の規制や慣行があるため、そこで積んだ経験はそのまま専門性につながります。
 
たとえば次のような例があります。

メーカー 知的財産(特許・商標)、製造物責任、品質保証関連
製薬会社・医療機器メーカー 薬機法、臨床試験、医療広告規制
toC事業(EC、SaaS、プラットフォームなど) 個人情報保護法、特定商取引法、景品表示法、利用規約整備
金融機関 金商法、銀行法、AML/CFT対応、金融規制対応
インフラ・エネルギー 業法対応、規制当局との折衝

 
これらは「企業法務」と一括りにできない、明確に専門性のある領域です。「製薬会社で薬機法対応を担当してきた」「toC事業で個人情報保護法やプライバシー関連の対応を主導してきた」と言えれば、それは立派な専門領域になります。

軸②:業務ジャンルによる専門性

もう一つの軸が、社内で担当する業務ジャンルです。企業法務の中にも、いくつかの領域があります。
 

取引法務 契約書の作成・レビュー、取引先との交渉支援、業務提携やM&Aの法務対応など
機関法務(ガバナンス) 株主総会や取締役会の運営、開示対応、コーポレートガバナンスに関する社内体制整備など
コンプライアンス 社内規程の整備、内部通報対応、不祥事対応、研修や啓発活動など
紛争対応 訴訟・仲裁・行政対応、社内の労務紛争対応など


会社によって、どの業務に注力するか、どの業務を兼務するかは異なります。「取引法務を中心に契約交渉に深く関わってきた」「機関法務を担当してきた」というだけでも、すでに一定の専門性として評価される経験になります。

「業界×業務ジャンル」で専門性が決まる

インハウスの専門性は、業界と業務ジャンルの掛け算で形作られていくイメージに近いといえます。たとえば「製薬メーカーの取引法務」と「インフラ企業のコンプライアンス」では、求められる知識も思考のクセも違います。
 
そのため、インハウスとしての自分の専門性を考えるときは、「企業法務をやってきた」と一言でまとめてしまうのではなく、どの業界で、どの業務ジャンルを、どのレベルで担当してきたかを分解して整理してみることをおすすめします。そうすると、自分の経験の独自性や、転職市場でアピールできるポイントが見えやすくなります。

業界特化はキャリアを狭めない

「業界×業務ジャンル」で自分の経験を整理してみたときに、「特定の業界に寄りすぎていて、そこでしか通用しないのでは」と不安になる方もいるかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。
 
金融で培ったリスク管理の感覚や、メーカーで培った契約交渉の経験は、他業界に移っても評価されます。
 
インハウスで身につく法務実務、事業理解、社内コミュニケーションの力は、業界をまたいで活かせる汎用的なスキルでもあります。
 
業界特化の経験は、必ずしもキャリアの幅を狭めるものではなく、むしろ転職市場での評価ポイントになることも多いといえるでしょう。

弁護士が専門分野選びで陥りがちな失敗パターン

ここまで、専門分野の捉え方や選び方、変え方について見てきました。一方で、専門分野を考えるときに、つまずきやすいポイントもあります。代表的なものを三つ挙げておきます。

市場ニーズだけで選んでしまう

「需要が高いから」「年収が高そうだから」という理由だけで分野を選んでしまうパターンです。市場ニーズを意識すること自体は悪いことではありませんが、それだけを判断軸にすると、興味を持続できずに実績を積む前にモチベーションが切れてしまうことがあります。

早く決めすぎてしまう

弁護士になって1〜2年目のうちに「自分は◯◯専門だ」と固定してしまうパターンです。早く決めることで方向性が定まる安心感はありますが、他分野に触れる機会を失うリスクもあります。

「専門がない=ダメ」と思い込む

専門を持っていないことを焦って、自分の経験を過小評価してしまうパターンです。
 
しかし、さまざまな分野に幅広く対応できることは、それ自体が強みです。とくに街弁スタイルや、軸を持ちながら幅広く扱うキャリアでは、横断的な対応力こそが価値になります。

市場で評価されやすい専門性の考え方「掛け算」で捉える

「自分の専門は何か」と問われて即答できない弁護士は多いものです。しかし、それは専門がないのではなく、整理されていないだけかもしれません。
 
おすすめは、「単一分野」ではなく「掛け算」で考えることです。これまでに担当してきた案件、関わってきた業界、扱ってきたフェーズを並べてみると、自分なりの強みの組み合わせが見えてきます。
 
たとえば次のような掛け算が考えられます。

企業法務×IT・スタートアップ

一般的な企業法務に加えて、IT企業やスタートアップ特有の論点(資金調達、ストックオプション、利用規約、SaaS契約、個人情報保護、新規事業の適法性検討など)を扱ってきたパターンです。
 
成長フェーズの企業が抱える独特の課題に対応できる弁護士は、ベンチャーやスタートアップを支援するファームや、急成長企業のインハウスポジションで重宝されます。

労働法×中小企業対応

労働法の知識を、中小企業のオーナー社長と直接やり取りしながら積み上げてきたパターンです。
 
大企業の人事部相手の労務対応とは異なり、社長個人の感情や経営判断と密接に絡む場面が多く、法律論だけでなく経営者目線での助言ができることが価値になります。顧問先として中小企業を多く抱える事務所では特に評価されやすいでしょう。

不動産×再開発・投資案件

不動産分野の中でも、単純な売買や賃貸借ではなく、再開発や投資スキーム関連の案件を中心に手がけてきたパターンです。
 
複雑な権利関係の整理、SPCを使ったスキーム構築、ファンドや投資家への対応に加えて、地権者や近隣住民との交渉といった現場対応もこなしてきた経験が強みになります。金融・不動産・地域社会の三方に目配りできる力は、再開発案件や不動産投資ファンドで強く求められます。

訴訟×特定業界

訴訟経験に、特定業界(建設、医療、IT、製造業など)の知見が掛け合わさったパターンです。
 
その業界の商慣習、業界用語、典型的なトラブル類型を理解していると、争点整理も和解交渉も格段にスムーズになります。業界特化型の事務所や、特定業界の企業をクライアントに持つ事務所からのニーズが見込めます。

専門分野はどうやって"決まっていく"のか

専門分野は、自分で決めるものでもありますが、同時に周囲から認識されるものでもあります。実際には、次の三つの要素が重なって、徐々に決まっていきます。

① 実務経験の積み重ね

案件数が多い分野、任される頻度が高い分野は、自然と自分の中心的な業務領域になっていきます。最初は意図していなくても、5年、10年と経験を重ねるうちに、その分野が自分の得意分野、ひいては専門分野になっていくのです。
 
今どんな案件に多く時間を使っているかは、将来の専門分野を考えるうえで重要な手がかりです。「気づけばこの分野ばかり扱っている」という領域があれば、それは自分の専門分野になりつつあると考えてよいでしょう。

② 向き・不向きの自覚

どの業務であれば比較的ストレスが少なく取り組めるか、長時間続けても苦にならないかという感覚は、自分の専門を考えるうえで重要なヒントになります。得意とは「苦にならない」ことでもあるからです。
 
自分が比較的気持ちよく取り組める分野、終わったあとに「またやりたい」と思える分野を見極めることは、専門を考えるうえで意外と重要です。

③ 周囲からの評価

専門分野は、周囲から自分がどう見られているかによっても形作られます。上司やクライアントから同じテーマについて繰り返し相談されたり、紹介の案件が特定の分野に偏ってきたりする。こうした外からの評価が、専門性を裏付けていきます。
 
同僚やクライアントが自分をどう見ているか、どんな案件を持ち込んでくるかは、自分の専門を客観的に把握するうえで貴重な情報です。周囲が自分に何を期待しているかに耳を傾けることも、専門分野を見極める手がかりになります。

専門分野と転職の関係

ここからは、専門分野が転職に与える影響について整理します。
 
「専門があると転職に有利なのか」「専門がまだ固まっていない段階で転職してもよいのか」といった疑問は、年次や状況を問わず多くの弁護士が抱えるものです。それぞれのケースについて見ていきましょう。

専門があると転職は楽になるのか

専門があると、求人とのマッチングはしやすくなります。求められるスキルや経験が明確な案件に対して「自分はここで貢献できる」と説明しやすくなりますし、入社後の活躍イメージも伝わりやすいため、条件交渉の余地も広がります。
 
一方で、専門を絞りすぎると、それに合致するポジション自体が少なくなるというジレンマもあります。たとえば「医療訴訟だけをやってきた」という非常にニッチな専門性は、それを欲しがる事務所にとっては大きな価値ですが、そもそも該当する求人の数自体が限られます。タイミングが合わなければ、しばらくの間ポジションを待ち続けることもあり得ます。
 
極めて狭い専門領域でハイレベルな求人を待ち続けるよりも、隣接領域も含めて柔軟に検討するほうが、結果的に良い転職につながることも多いです。専門性は「武器」であると同時に「制約」にもなり得る、ということは意識しておきたいところです。

専門が固まりきっていなくても転職できるのか

「自分にはまだ専門と呼べるものがない」と感じている方でも、転職を諦める必要はありません。比較的若手の段階であれば、専門が定まりきっていなくても十分に転職可能です。
 
重要なのは、「専門がない」ではなく「どこをどう伸ばしたいか」を説明できることです。たとえば「これまで一般民事を幅広く扱ってきましたが、今後は企業法務、特にコンプライアンス領域を深めていきたい」というように、過去の経験と今後の方向性を結びつけて語れれば、未経験分野の求人でも採用に至るケースは少なくありません。
 
採用側も、「すでに完成した専門家」ばかりを求めているわけではなく、「これから自社で育っていける人材」を探していることも多いものです。経験の整理と将来像の言語化さえできれば、転職市場での評価は十分に得られます。

転職によって専門性を"作る"という選択

転職には、すでにある専門性を活かすだけでなく、これから専門性を作るための手段としての側面もあります。
 
環境を変えることで、担当分野や案件の深さを一気に変えられます。今の事務所では経験できない領域、扱えない規模の案件に飛び込むことで、それまでにはなかった専門性が結果的に育っていく、ということもあるからです。
 
たとえば、一般民事をやってきた弁護士が企業法務系の事務所に移ることで企業法務の経験を積めたり、地方の総合事務所にいた弁護士が大手のプラクティスチームに加わることで特定分野を深く掘り下げられたりします。
 
「専門があるから転職する」だけでなく、「専門を作るために転職する」という選択肢もあります。今の環境で専門性が育ちにくいと感じるなら、転職によって環境ごと変えてしまうのも、現実的な手段の一つです。

専門分野は「決めるもの」ではなく「育てるもの」

専門分野は早く決めれば良いというものではありません。大切なのは、これまでの経験を整理することと、将来どんな弁護士になりたいかを描くこと、そしてその二つをつなぐことです。
 
専門がはっきり見えない状態は、決して「遅れている」わけではありません。多くの場合、整理されていないだけです。これまで担当してきた案件や扱った論点、関わった業界、得意な業務スタイルを丁寧に棚卸しすれば、自分なりの「軸」や「掛け算」が見えてきます。
 
弁護士のキャリアは長いものです。一度決めた専門で生涯走り続ける方もいれば、節目で軸を変えていく方もいます。どちらが正解ということはありません。自分のキャリアビジョンと、今の自分の経験をつなぎながら、「育てる」感覚で専門と向き合っていく。それが、変化の激しい時代における専門分野との付き合い方ではないでしょうか。
 
専門についての悩みは、一人で抱えがちなテーマでもあります。「自分の経験をどう専門性として説明すればよいか」「専門分野を変えたいけれど、どこから動けばよいか」と迷ったときは、第三者の視点を借りるのが近道です。
 
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中澤 泉(弁護士)

弁護士事務所にて債務整理、交通事故、離婚、相続といった幅広い分野の案件を担当した後、メーカーの法務部で企業法務の経験を積んでまいりました。その後フリーランスのライターとして活動を経て、現在は合同会社ことりうみにて法律分野を中心にライター・編集者として活動するとともに、弁護士としても企業法務に携わっています。

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