業界トピックス

ドラマと現実の違い~99.9%の理由~

目次
  • 1.日本の刑事司法は疑われたらおしまい?

  • 2.有罪率99.9%の根拠

  • 3.そもそも無罪を争うことは少ない

  • 4.裁判になる前から弁護活動は始まる

  • 5.本物の弁護士のお仕事

  • 6.弁護士の重要な使命

1.日本の刑事司法は疑われたらおしまい?

大学で弁護士の仕事についての講演をした際、学生の中に、日本の刑事司法は疑われたら終わり、冤罪が多発しているという強い危機感と使命感から弁護士を目指している方がいました。人気弁護士ドラマの影響でしょう。無罪を勝ち取るべく戦う弁護士の立場からは、そのとおり、だから日本の刑事司法は正すべき、というポジショントークをおこなうべきところです。しかし、努めて客観的に判断するならば、日本は、冤罪がないわけでは決してありませんが、冤罪がまかり通るような危険な国ではありません。ここでは、刑事事件におけるドラマと現実との違いを解説し、現実における弁護士の仕事の内容を紹介します。

2.有罪率99.9%の根拠

司法統計情報年報刑事令和2年度「通常第一審事件の終局総人員 罪名別終局区分別 全地方裁判所」
及び「通常第一審事件の終局総人員  罪名別終局区分別  全簡易裁判所」
によると、同年中に終局した第一審事件51,017件中、被告人が無罪判決を勝ち取ったのはわずか75件でした。有罪率99.9%というのは誇張ではなく事実であることがわかります。

3.そもそも無罪を争うことは少ない

司法統計情報年報刑事令和2年度「通常第一審事件の終局総人員 合議・単独,自白の程度別弁護関係別 全地方・簡易裁判所」
によると、同年中に終局した第一審事件51,017件中、自白事件が45,355件、否認事件が4,254件、その他が1,408件となっています。単純計算で、罪を認めて争わない自白事件の比率は88.9%です。自白事件での争点は犯罪事実の有無ではなく量刑になります。

しかも、罪を争う否認には一部否認も含まれます。一部否認とは、例えば、人を殴り殺した殺人罪に問われている場合に、殴ったことは認めるが殺すつもりはなかったから傷害致死罪しか成立しないとして、犯罪事実の一部だけを認めないものです。否認だからと言って無罪を求めているとは限りません。なお、弁護士の活躍により殺人被告事件で傷害致死を勝ち取っても、統計上は有罪としてカウントされてしまいます。

さらに、その他には被告事件についての陳述を聞く段階に至らずに終局したものを計上したとありますが、具体的には裁判が開始して直ぐに被告人が亡くなってしまった場合が想定されます。その他の中にも自白事件であったものが多数含まれていると考えられます。

4.裁判になる前から弁護活動は始まる

日本の刑事司法制度では、いきなり裁判が始まるわけではありません。まずは警察官が事件を捜査し、その後事件が検察官に送致され、検察官が事件を起訴することで、ようやく裁判が始まります。弁護士の仕事は裁判で戦うだけではありません。事件が警察官の手にあるときは送致を食い止め、検察官の手にあるときは起訴を食い止めることがミッションとなります。

令和3年度版犯罪白書によると、令和2年に警察官が検挙した事件のうち、微罪処分(刑事訴訟法246条ただし書にある検察官が指定した事件として検察官に送致しなかった事件)の割合は28.5%(送致率は71.5%)でした。
また、同白書によれば、令和2年に検察官が刑法犯を起訴した割合は37.4%でした。
さらに、検察官は、送致を受けた事件のうち有罪が見込める部分のみを起訴することも可能です。弁護活動が奏功して、強盗致傷罪として捜査されていた事件が強盗罪で起訴されることもあります。

99.9%という数字は、分母から警察官が事件を送致しなかったものと検察官が事件を起訴しなかったものを除外し、自白事件や一部否認事件も分母に加え、分子では一部否認が認められた事件も有罪とカウントして算出されたものです。既に起訴されてしまった事件で無罪を勝ち取ることは極めて困難ですが、弁護士は常に絶望的な弁護活動を強いられているわけではありません。

5.本物の弁護士のお仕事

筆者が弁護士になったばかりのころ、簡単な私選刑事弁護事件を担当しました。事件の概要は、酔っぱらいがAビルに設置された消火器を持ち出して、隣のBビル前で噴射して玄関を汚した、というものでした。成立する犯罪は、消火器を所有して占有するAビルのオーナーに対する窃盗罪と、Bビルを所有するBビルオーナーに対する器物損壊罪です。

酔っぱらいが罪を認めている自白事件で、早々に被害弁償を済ませました。逮捕されていない在宅事件で、警察官は被害者から寛大な処分を求める示談書を受け取れれば検察官に送致しないと言ってくれています。しかし、AビルのオーナーもBビルのオーナーも法人で、示談書に押印するためには取締役会にかける必要がありました。どちらの法人も大ごととは思っておらず、臨時の取締役会を開くまでもないと考えてくれています。

困ったのは筆者です。被害者に謝罪しながら示談書の文言調整を行い、急かして気分を害さないようにおそるおそる取締役会の日程と押印予定日を聞き取り、警察官に謝罪しながら事情を説明して送致の判断を待ってもらうという謝罪謝罪アンド謝罪に明け暮れました。

弁護士になる前の筆者も、刑事事件の大半は自白事件あるという知識を得ていました。しかし、自白事件であっても、法廷での弁護士は、弁護士ドラマと同様にスーツをびしっと決めて格好良く検察官とやりあっています。検察官や裁判官に対して謝罪を繰り返すことはありません。

ところが筆者は、弁護士として、被害者や警察官にひたすら頭を下げています。筆者は、そのときまで想像もしていなかった初めての経験に、ようやく法曹の卵を脱して本物の弁護士になることができたと感動しました。当時は必死でしたが、今から振り返れば当たり前のように不送致を勝ち取ることができ、当時のボス弁の配慮に感謝が尽きません。

6.弁護士の重要な使命

ドラマの中の弁護士は、いつも逮捕されてしまった被疑者被告人の無罪を主張し、冤罪を晴らしています。しかし、現実ではこれはレアケースです。現実の刑事事件は、逮捕すらされていない状態から始まることも多く、被疑者被告人が罪を認めていることが大半です。罪を認めている被疑者被告人に対して、反省を促し、被害者の赦しを得られるよう尽力し、過剰な刑罰が科されることを防ぎ、更生を支援し、犯罪を繰り返すことがないように導くことも、弁護士の重要な使命です。現実の弁護士の仕事を知った上で、そこに魅力を感じたときは、ぜひC&Rリーガル・エージェンシー社にご相談ください。刑事弁護人として活躍できる環境をご紹介いたします。

記事提供ライター

弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。

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