転職ノウハウ
弁護士の転職活動で求められる英語力とTOEIC対策法
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1.弁護士の転職で求められる英語力
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2.TOEICの制度概要と転職活動におけるTOEICスコアのニーズ
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3.TOEICのスコアの上げ方
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4.まとめ
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グローバル化が叫ばれて久しいこの時代、日系企業でも社員の英語力がますます重視されるようになっています。では、弁護士の転職の場合はどうなのでしょうか。英語力に対する採用側のニーズと、転職の際のアピール材料としてTOEICのスコアを獲得したい方向けの対策法をまとめてみました。
1.弁護士の転職で求められる英語力
1-1 法律事務所の場合
法律事務所の場合は、事務所の取扱分野によって大きく変わります。地域住民からの事件を中心に扱ういわゆる「マチ弁」では、業務で英語を用いる場面が比較的少ないことから、英語力を弁護士採用の基準にしているところは少数です。
ただし、英語ができる弁護士が参画することで、外国人事件など、事務所としても受任する仕事の幅を増やせる可能性がありますので、転職の際のアピール材料の1つになることは間違いないでしょう。「必須」ではないけれども、「あれば歓迎」という位置づけのスキルだと言えそうです。
一方、外資系法律事務所や弁護士100名を超えるような大規模法律事務所、また、中堅以下の希望であっても、顧問先に海外取引の多い企業が含まれている法律事務所や外国人事件を多数扱っている法律事務所などでは、英語を始めとする外国語の能力が高い弁護士は重宝されます。
外国語で契約書を作成したり、事件についての詳細な聴き取りを行ったりする場合など、小さな誤解が大きなミスにつながりかねない場面では、バイリンガルレベルの語学力がない限りきちんとした翻訳者・通訳人をつけることが多く、大手の法律事務所では、所内に英語翻訳の部署を置いているところもあります。とはいえ、相手方との英語での交渉、英語での会議、国際仲裁などにおける英語での事実関係ヒアリング、仲裁(判断権者)へのプレゼンテーション・証人尋問など、弁護士が英語を使う機会はかなりあります。案件によっては、英語力ビジネスレベル(スピーキング含む)が不可欠となりますので、特に外資や海外進出をする日系企業のクロスボーダー案件を得意とする法律事務所に所属する場合は必須と考えたほうがよいでしょう。
1-2 一般企業の場合
一般企業の場合は、企業法務実務経験を第一に重視しながらも、グローバル展開している会社ほど、英語力を問われやすいです。英語力を求める企業の求人票では、TOEIC700点程度の英語力と記載されていることが多い印象ですので、英語を使った法務業務に携わりたい方は、この程度の英語力は身につけておくことをお勧めします。なお、英語を活かして仕事ができるレベルはTOEIC800点以上とも言われており、例えばTOEIC800点以上を大卒の新卒者採用の要件にしたり、昇格要件にTOEIC750点以上の取得を入れている企業もあります。
また、外資系企業や一部の日系企業では、英語力が明示的な要件とはされていなくても、職務経歴書を英文で提出することが求められたり、社内でのやりとりは基本的に英語でなされる社風であったりするなど、実際上、英語ができない人は採用される見込みが極めて少ないような会社もあります。
2.TOEICの制度概要と転職活動におけるTOEICスコアのニーズ
2-1 TOEICの概要
TOEICテストには、大きく分けてTOEIC Listening & Reading、TOEIC Speaking & Writingの2種類があります。一般的にTOEICと言われるときは、前者のListening & Readingを指しますので、この記事でもListening & Readingの受験を前提に説明していきます。
なお、TOEIC Bridgeテストというものもありますが、これはTOEICテストの前段階にあたる初心者・中級者用のテストになりますので、割愛します。
TOEICテストは、リスニング100問(Part1~Part4の4部構成・試験時間45分・495点満点)、リーディング100問(Part5~Part8の3部構成・試験時間75分・495点満点)で構成されるマークシート方式の試験で、途中休憩はなく、2時間で200問を一気に解ききります。年間10回実施され、例年、受験者数は約250万人(なお、Speaking & Writingの受験者は4万人に満たない数です)、平均点は約580点です。
英検の場合はSpeakingとWritingの能力も同時に問われるため一概に比較はできませんが、TOEIC600~695点が英検準2級A、700~795点が準1級、800点以上が1級レベルと言われるようです。
2-2 弁護士の転職活動におけるTOEICスコアのニーズ
では、弁護士が転職活動をするときに、TOEICスコアを取得することにはどれほどの意味があるのでしょうか。
上記のとおり、実務で求められているのは「英語を仕事に活かせる力」だと考えられますが、TOEICのスコアが高いことが英語の実践力に直結していないケースも実はたくさんあります。「リーディングとリスニングはだいたいOKだが、ライティングには時間がかかり、英会話になると言葉に詰まってしまう」というのがその典型例と言えるでしょう。
採用側もそのことはよく分かっているので、単に「TOEICが高得点だからというだけでは、「英語を仕事に活かせる弁護士」だとは思ってもらえないかもしれません。
しかし、ご自身の英語の学習成果や、英語に対する意識の高さを示すために、客観的データであるTOEICのスコアを提出することは、十分に意味があります。
とはいえ、提出するのであれば、かなりの高得点でなければアピール力は弱いように思います。例えば、慶應義塾大学法科大学院は、「特に評価する外国語試験のスコア」を有している人の場合、スコアを入学試験で考慮してもらえる制度になっていますが、その基準はTOEICでは900点です。超上位校とはいえ、法科大学院入試レベルでもこのような扱いになっていることを考えれば、法律実務家として英語力をアピールするのなら、やはりTOEIC700点台半ば以上のスコアは欲しいところでしょう。
では、どのような学習をすればそのレベルのスコアを獲得できるのか、次の項目で見て行きたいと思います。
3.TOEICのスコアの上げ方
3-1 まずは「敵を知り、己を知る」こと
TOEICの学習を始める前に、まずは現在の自分のレベルがどれくらいなのかをチェックしてみてください。市販のTOEIC公式問題集を購入して、本番のつもりで解いてみましょう。その上で、リーディング、リスニングのどちらが苦手なのか、どのパートが苦手なのか、リーディングで自分が「読みにくい」と感じる文章はどんなジャンルのものなのか等、司法試験のときのように、詳細に分析と対策をおこなっていきます。
例えば、リスニングテストの音声には、イギリス英語、アメリカ英語、カナダ英語、オーストラリア英語の4種類が含まれていますので、聞き取りにくい「なまり」があれば、それに慣れるための聴き取り訓練が必要になります。
また、問題用紙に書き込みをすることは禁止されていて、リスニング中にメモをとったり、リーディングで日本語訳をメモしたりすることはできません。この点も踏まえて対策を考えていく必要があるでしょう。
3-2 レベル別の対策法
まず、TOEIC600点台以下のスコアの方は、単純に「英語の知識を忘れてしまっている」場合が多いと思います。TOEICテストは、リスニングの音声は1回しか流れないため迷っている時間はありませんし、リーディングもゆっくり回答していては最後まで解き終わらないくらいの分量が出題されます。
弁護士になられた方は、高校や大学できちんと体系的に英語を学習してきた方が多いと思われますので、TOEIC700点以上のスコアを獲得できる素地はあるはずです。それにもかかわらず、もしスコアが600点台かそれ以下にとどまっているのであれば、長いこと英語から遠ざかったために忘れてしまったか、思い出すまでに時間がかかりすぎて回答スピードが遅くなっているという可能性が考えられます。そのような場合は、以下の対策が有効です。
・薄めの英文法書で文法の全範囲を総復習する
・大学受験レベルの基本英単語を復習する
・公式問題集の問題分を「精読」し、丁寧な学習を積み重ねる
・英語音声のシャドーイング(聞こえた音声に続けて同じように発音する)をする
次に、TOEIC700点台の方は、一定以上の英語力は身に付いているけれども、TOEICに特化した学習が足りていない場合が多いと思います。TOEIC800点以上を取るためには、英語力に加えて「テスト戦略」が必要になってきます。
TOEICはビジネスパーソン向けの試験であるため、ビジネスの場面からの出題が多く、それに関連した単語にも精通している必要があります。また、リスニングとリーディングでは、リスニングのほうが比較的高得点を取りやすいと言われますので、まずはリスニングの点数を上げることに重点を置くとよいでしょう。リスニングで音声が流れる前に問題と選択肢を読んでおく「先読み」というやり方をトレーニングするのも有効です。リーディングでは、「時間不足で解き終わらず、後半の問題は適当にマークシートを塗って提出する」という状態では、更なる高得点は見込めませんので、文法や単語で迷う時間を減らして、1つ1つの問題の解答時間を上げることもポイントです。
そこで有効と考えられるのが、以下の対策です。
・TOEIC向けの英単語集で語彙力を高める
・TOEICの公式問題集をやり込む
・TOEICの試験上のルールや問題傾向を分析し、「テスト戦略」を練る
最後に、TOEIC800点台の実力がある方が900点の壁を越えるための対策についてです。率直に言うと、この壁が一番厚いでしょう。TOEIC800点くらいまでは、やればやっただけ点数が上がる傾向にありますが、900点を超えようとすると、努力に比例した成果が感じられず、伸び悩む方も少なくありません。
この段階まで来た方は、どの分野においても「速く」かつ「正確に」解くことを意識しながら、今までの勉強法を見直してみることも大切です。例えば、文章を読む際に頭の中で音読する癖のある人は、それをやめてみることも有効と思われます。 音読を前提とすると、実際に喋る速度以上のスピードが出ないため、完全に黙読にしたほうが読むスピードは格段にあがります。また、日本語と英語は語順が違いますので、自然な日本語に訳して理解するのではなく、英語の語順でそのまま意味を理解できるように訓練するとよいでしょう。
リスニングでは、普段から1.2倍速や1.5倍速で音声を聞きながらシャドーイングをするようにすると、本番の音声がゆっくりと感じられて余裕が持てます。
ここまでのレベルに到達した方がやるべき対策としては、以下のようなものが考えられます。
・とにかく毎日たくさん読み、たくさん聞く(素材は何でもよいですが、英語のニュースサイトであればスマートフォンでも見ることができてビジネス的な内容も含まれているので便利です)
・苦手なPartをなくす
・上記の黙読、倍速リスニングなど、より負荷のかかった訓練をする
4.まとめ
弁護士の転職においては、英語力を必須の要素としている法律事務所・企業は比較的少数といえますが、これからの時代、英語力を身につけておいて損をすることはありません。ご自身の研鑽のためにもTOEICで高得点を目指し、その成果を転職においてもアピール材料としていただくのがよいのではないでしょうか。
C&Rリーガル・エージェンシー社は、弁護士に特化した転職エージェントです。法律事務所や一般企業が今まさに何を求めているのかを適切に把握し、短期間での転職を可能にするため、総合的なサポートを行っております。英語力のニーズに関する最新情報も日々蓄積されておりますので、お悩みの方はどうぞお気軽にご相談ください。
記事提供ライター 元弁護士
社会人経験後、法科大学院を経て司法試験合格(弁護士登録)。約7年の実務経験を経て、現在は子育て中心の生活をしながら、司法試験受験指導、法務翻訳、法律ライターなど、法的知識を活かして幅広く活動している。