業界トピックス

弁護士が独立準備としてすべきこととは

目次
  • 1 弁護士が独立するメリットとデメリット

  • 2 独立準備として必要なこと

  • 3 まとめ

 弁護士の代表的な働き方としては、法律事務所に所属する、企業内弁護士になる、独立開業する、が挙げられると思います。2020年の法律事務所の数は17,417ですが、そのうち弁護士数が1人の法律事務所が10,525であることからすると、1人で独立開業する弁護士はかなり多いといえそうです。
 弁護士になったときから独立を目標にしていた方、弁護士として経験を積むうちに独立を考えるようになった方、やむを得ず独立する流れになった方など、独立までの経緯にはいろいろあるかと思いますが、いずれにしても独立するのであれば準備しておかなければならないことがいくつもあります。今回はそれらをまとめてみたいと思います。 

1 弁護士が独立するメリットとデメリット

 まず、独立するかしないか迷っている方向けに、独立のメリットとデメリットをまとめます。独立とはすなわち「経営者」になることです。
 弁護士の肩書があるだけで食べていける時代ではなくなりつつある今、独立開業するということは、「弁護士」としての能力とはまた異なる、「経営者」としての視点、スキルが問われてくるということは意識しておきましょう。

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独立のメリット

 弁護士が独立する最大のメリットは「自由な働き方ができる」という点です。
 法律事務所をどこに設置するか、どのような事件を受ける/受けないか、業務曜日や時間帯をどのように設定するかをすべて自分で決めることができます。ボス弁の稼働時間に合わせる必要もないですし、所属事務所の方針であまり受任してこなかったような類型の事件も自由に受任することができます。
 とはいえ、自らが法律事務所の経営者になるということは、売上をしっかり立てて法律事務所を維持していかなければならないということです。休みを多くしていたり、事件をえり好みしすぎていては早晩経営が傾いてしまいますが、経営難を理由に廃業して事件を途中で放り出すということは弁護士として避けるべきです。事務員を雇用するのであれば、その人やその家族の生活にも影響してしまいます。小規模でも「一国一城の主」となる以上、きちんと経営計画を立てて実践していくことが大切です(経営に関する具体的な注意点は、「2 独立準備として必要なこと」で詳述します)。

一般的に言われている独立のデメリット

 独立する際のデメリットとして、「事務所経営の費用がかかる」「営業活動に労力を割かなければならない」「収入が不安定になる」という点が挙げられることが多いですが、これらは独立開業するにあたり当然に付随してくる事柄ですので、デメリットというほどのことではないように思います。逆に言えば、これらをデメリットと感じるのであれば、そもそも独立は目指さずに法律事務所や企業に所属していたほうがよいです。

1人で独立する場合のデメリット

 1人で独立する場合、重要なデメリットとしては「事件処理についてすぐに相談・質問できる人が身近にいないこと」があると思います。複数人の弁護士が在籍するような法律事務所に所属していれば、ボス弁や先輩弁護士が近くに座っていて、わからないことがあればいつでも尋ねることができます。しかし、1人事務所ではそうもいきません。
 最近は、同期のグループチャットや、委員会のメーリングリストなどで他の弁護士に相談しやすい環境も整ってきたとはいえますが、守秘義務がある関係で外部の弁護士に事件の詳細を話すことはできないため、質問するとしてもある程度抽象的な内容になってしまうかと思います。

複数人で独立する場合のデメリット

 複数人で独立する場合、独立した後に関係がこじれる可能性があることです。単なる同業の友人・先輩として話している分には気が合ったとしても、一緒に事務所運営をするようになると価値観の違いが浮き彫りになり、互いに不満が募っていくケースは少なくありません。
実際に、数名で独立開業したものの人間関係がこじれてしまい、数年後にはそこからまた1人で独立するに至ったという例があります。また、経営がうまくいかない時期に責任をお互いに擦り付け合い、結局は独立した事務所を畳んでそれぞれがイソ弁に戻った例、順調に経営を進めていたものの、事務所の拡大方針で意見が対立し、分裂してしまった例などもありました。

2 独立準備として必要なこと

 独立すると自由に働くことができるようになる半面、売上を立てることへのプレッシャーはこれまでの比ではなくなります。特に、独立前に給与制で働いていた人は「経営」に対する考え方が甘い場合もありますので、独立する前に、先に独立した先輩や同期に実情を聞いたり、税理士に相談して収支のシミュレーションをしたりすることが極めて重要になります。
 また、勤務先と円満な関係を維持したまま独立することも大切です。弁護士業界は狭い世界ですので、勤務先から応援を得られる形での独立を目指しましょう。
 独立をするタイミングとしては、弁護士経験5年程度の場合が多いようですが、最近では日弁連が若手の独立支援を積極的に行っています。「即時・早期独立開業マニュアル」や「若手会員・修習生向け支援メーリングリスト」、「独立開業支援チューター制度」などが用意されているようですので、積極的に活用してみてください(日本弁護士連合会 日弁連の独立開業支援について)。
 以下では、一般的な独立開業プロセスと注意点について概要をまとめてみます。

 (1) 独立した場合の金銭面のシミュレーションをする

 やむを得ない事情で急遽独立しないといけなくなる場合もありますが、基本的には年単位で計画・準備をしてから独立することをオススメします。
 まず考えるべきことは、初期費用としていくらお金がかかるか、そして法律事務所を1か月維持するのにいくらくらいかかるかを見積もることです。
経費のうち大きな割合を占めるのは、法律事務所の賃料と人件費です。賃料は場所や広さによって金額が大きく変わるので、複数のパターンを想定して見積もりをしておくと良いでしょう。とはいえ、大都市の場合、依頼者の利便性や業務効率を考えれば、駅から近く、裁判所にアクセスしやすい場所に事務所を構えるのが得策と思われます(地方都市のように車社会であれば、この点はあまり関係ないかもしれません)。
 東京で1人で独立する場合、初期費用に200~300万円程度かかるのが一般的と言われています。

①賃料

 賃料については、初月は敷金・礼金も含めて数か月分相当額を支払う必要があるため、かなりの支出になります。
 最近は、レンタルオフィスを借りて、賃料や人件費、備品類に関する初期費用を抑えた形で開業する弁護士も増えてきていますが、弁護士は執務実態を確認できる事務所の設置が義務付けられていますので、「バーチャルオフィスは使えない」という点に注意してください。
 また、自宅兼法律事務所とする場合、法律事務所の住所は日弁連のホームページに記載されるためセキュリティの問題が生じうること、家賃の一部を経費にすることになるので税務署にきちんと説明できるようにしておくこと(脱税と思われないようにすること)を意識しましょう。


②人件費

人件費も大きな支出となります。事務員がいれば、電話や来客対応、FAXの送受信、郵便物の受け取り、裁判所へのおつかいなどの事務処理の負担は減りますが、人件費の負担は軽くはありませんし、良い人材にすぐに巡り合えるとも限りません。
 雇用契約を結ぶと簡単に解雇することはできないため、最初は1人でやってみる、まずはアルバイトの形態で週2~3日だけ来てもらうなどの方法もあります。
 安いお金で家族や友人にお願いするという方法もありえますが、近い関係の人だからこそ、言いたいことが言えなかったり、逆に言葉がきつくなり過ぎたりしてギクシャクしてしまう場合がありますので、注意してください。
 最近は、電話はすべて携帯電話に転送して出られないときは電話秘書を使う、FAXは電子FAXを利用するなどの方法を用いて、事務処理の負担を軽くし、かつ経費を削減する工夫をしている法律事務所も多数あります(電子FAXであれば必要なものだけ印刷することができるので、営業用のFAXの印刷に費やされるコピー用紙やインク代を節約することにもつながります。こういった小さいところで経費節減の工夫をすることが大切なのです)。

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③その他

賃料や人件費以外にも、光熱費、水道代、電話代、備品代、宣伝広告費、接待交際費、新聞図書費、交通費(そしてもちろん弁護士会会費)など、毎月様々なお金がかかります。独立を機に弁護士会の登録替えを行う場合は、そのための費用も数十万かかることがあります(なお、懲戒請求が係属している場合、登録替えはできませんので、その点も注意してください)。
初期費用としては、備品類だけでも、執務用の机と椅子、来客用の机と椅子、本棚、電話・FAX機器、コピー機、シュレッダー、冷蔵庫、食器や飲み物類(来客のお茶出し用)、事務用の備品(コピー用紙、記録用ファイル、電話メモ、ペン、電卓、「正本」「副本」などの印鑑)、掃除道具、電球、洗剤、ティッシュペーパー、ごみ袋など、大きなものからこまごまとしたものまでありますが、一通り揃えるとなるとそれなりの額になってきます。こだわりがある場合には、一層経費がかさみます。
 見落としがないかどうか、所属事務所の事務員や独立した先輩・同期に相談して情報収集をしておきましょう。

(2)資金繰りの計画を立てる

 必要経費の概算を把握できたら、資金繰りの検討に入ります。確定申告をサポートしてくれている税理士がいる場合、その人にも相談しながらシミュレーションをするとよいと思います。
 検討すべきことは「毎月かかりそうな経費を賄い、自分の生活を維持するためには、毎月いくらの売上があればいいのか、それだけの売上を立てるためには毎月どのくらいの事件を受任すればよいのか」という点です。
 事件の受任を前提とすると、弁護士の収入源は基本的に「着手金(受任時に受け取るもの)+報酬金(事件終了時に受け取るもの)」ですが、事件がいつ終了するかは相手方や裁判所の対応にもよるため正確な予測ができません。なので、着手金だけで事務所を維持するとしたら毎月何件の新件を受任すればよいかと考えておくとよいです。
 事件の受任以外に顧問先の獲得も重要です。顧問弁護士になれば、特に事件処理をしなくても顧問料として毎月一定額を受け取ることになるので、顧問先を多く獲得することが収入の安定につながります。
  
 ここで注意すべきなのは、法律事務所に所属していたときのようにボス弁や先輩が受任してきた案件を手伝わせてもらうことはできないこと、そして、独立したばかりでは法律事務所のネームバリューで依頼が来るとは考えにくいことです。つまり、すべて自分の力で集客していかなければならないのです。法テラスを使って国選弁護事件を多く受けたり、法テラスの民事法律相談に多く入るなどの形で受任数を増やすこともできますが、やはり経営者としては個人の力で集客できるようになることを目指したいところです。隣接士業との異業種交流会に参加する、弁護士専門のポータルサイトやSNSを利用する、業者に依頼してホームページを作成するという方法で営業努力をしている弁護士も少なくありません。最近では、弁護士や士業に特化した集客セミナーなども多数開かれているようです。
 また、たくさん受任しても、それに十分に対応できなければ顧客満足度は下がるので、法律事務所の評判も下がってしまいます。営業活動や人脈作りにも一定の時間を割かなければならないことを考えると、これまでと同じだけの時間を事件処理に充てるのは難しいという前提で、同時並行で処理することが可能な事件数はどのくらいかを考えておいたほうが無難です。

 その上で、今の自分の実力で十分に集客ができ、事件処理上も問題ないと思えるのであれば、初期費用の調達ができ次第すぐに独立しても構わないと思います。もし、「集客の能力が足りない」「事件処理のスピードが遅い」という課題がある場合は、その能力を磨いてから独立したほうがよいです。
 独立したばかりの時は、事件をえり好みしているほど経営に余裕がないと思われますので、幅広い分野についての基礎知識を身につけておくことが大切です。しかしその一方で、大都市の場合には弁護士業務も専門分化してきています。長い目でみたときに、自分はどの分野の弁護士として知名度を上げたいのかも考え、その分野については特に経験を積むよう意識するよいでしょう。
 また、「独立するデメリット」のところで述べた通り、一人で独立する場合には事件処理の相談をできる相手が身近にいないことから、これまで以上に「調べ、考える力」を養い、また、何かの時には共同受任をしてもらえるよう、先輩や同期とよい関係を築いておくことが肝要だと思われます。

 また、弁護士の中には「お金の請求が苦手」という人が一定数います。依頼者の中には、弁護士費用(特に報酬金)の支払いを渋る人もいますが、それをうやむやにしていては、売上に影響します。「なんとなくお金の話はしにくい」と思う人もいるかもしれませんが、正当な業務の対価ですので、毅然とした態度で請求できるようになってください。


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(3)開業資金の調達

このようにして、法律事務所開業後の運営シミュレーションを行い、独立を決意したら、次の課題は開業資金の調達です。初期費用として必要な額に加え、最低6か月は赤字経営(最悪の場合、無収入)でも生活できるだけの貯金を準備しておくと安心です。
 初期費用は貯金ですべて賄わずに金融機関から融資を受ける方法もありますが、1人ないし少人数での開業の場合、借金の額はできるだけ抑えるほうが安全かと思います。開業してみたら思ったほど集客できなかったとか、新型コロナウイルスの流行のように事前に予測できない事態の発生で思ったように仕事ができなくなる場合もありえますので、慎重の上にも慎重を重ねるほうがよいと思われます。

(4)円満退所に向けた相談・手続き

 資金繰りという面での独立準備に目途が立ったら、現在の勤務先での退所準備に入ります。ここで大切なのは、所属事務所とよい関係を維持したまま退所することです。
 良い関係を維持しておけば、独立した後、前の所属事務所の弁護士が事件を紹介してくれたり、共同受任してくれたりすることもあり、偶然に事件の相手方代理人となった場合にも円滑な交渉ができる場合もあるでしょう(特に、独立直後にご祝儀的な意味で事件を紹介してくれるケースは少なくありません)。企業勤めの場合も、企業法務案件の中で前に勤めていた企業と関わることになったり、元同僚経由で依頼がくることも考えられます。一方で、退所時に関係が悪化していると、業界内で悪い噂が広がってしまうこともありえます。

 円満退所できない理由として多いのが、「勤務先の都合を考えずに一方的に退所してしまうこと」です。退所によって人手が減れば他の弁護士の負担は増えますし、場合によっては翌年の採用人数を増やすという経営判断をする必要もあるでしょう。また、所属事務所から割り振られた事件については辞任することになるのが一般的なので、依頼者にとっては、自分の事件を投げ出されるように感じるかもしれません。
 所属事務所の負担をできるだけ減らし、依頼者に不満が残らないようにするために、退所予定日から遡って遅くても半年ないし1年程度前にはボス弁に対して退所の意思を表明しておくと良いと思われます。いつ頃なら退所してよいかについては、所属事務所側の希望としっかりすり合わせをすることが大切です。
 その上で、段階的に所属事務所から振られる事件の受任を減らし、途中で辞任する事件数を減らすこと、退所までに終了しないと思われる事件については引継ぎをしっかりすること、という配慮が必要です。退所してすぐに開業する場合(そのような場合がほとんどだと思います)、所属事務所での業務と並行して独立準備も行っていくことになるので、出勤日数が減ったり、所属事務所に業者を呼んで打ち合わせをしたりすることについても理解を得ておけるとベストです。

 企業内弁護士の場合も、特に企業の中に弁護士が1人しかいないという場合、その1人が抜けることの影響は大きいため、新しい弁護士を採用して引継ぎをしてから辞めて欲しいという要望がでることが想定されます。企業の場合は、手続に則れば退職自体は数か月以内にできるはずですが、やはり周囲の理解を得て退職することをおすすめします。

 数人で独立開業する場合、人によって退所時期がずれることがありますので、その期間の業務をどうするかについても相談しておく必要があるでしょう。

3 まとめ

 独立開業する弁護士は多数いますが、独立するまでには考えなければならないこと、準備しなければならないことがたくさんあり、想像以上に大変な作業です。経営者になることでこれまでとは違った責任や負担も生じてきます。しかし、ご自身の事務所を軌道に乗せ、理想の働き方や弁護士としての理想を追求していくことができれば、個人としても弁護士としても大きな成長につながるはずです。
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記事提供ライター

社会人経験後、法科大学院を経て司法試験合格(弁護士登録)。約7年の実務経験を経て、現在は子育て中心の生活をしながら、司法試験受験指導、法務翻訳、法律ライターなど、法的知識を活かして幅広く活動している。

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