業界トピックス
弁護士になるためにはどのくらい勉強する必要があるか
- 目次
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1.弁護士になるまでに必要な勉強時間
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2.司法試験合格までにかかる期間
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3.弁護士になるために勉強する必要がある科目
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4.司法試験合格のために有効な勉強法
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5.まとめ
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1.弁護士になるまでに必要な勉強時間
弁護士になるためには、司法試験に合格し、司法修習を経て司法修習生考試に合格する必要があります。司法修習生考試については「司法修習生考試(二回試験)に対策は必要か」
で触れましたが、合格率が高いため、司法試験に合格すれば弁護士になれると考えることにも合理性があります。
インターネット上で「司法試験 勉強時間」をキーワードに検索してみると、短ければ3,000時間の勉強で合格できるといわれているようです。これは筆者の感覚と大きく異なります。ここでは、弁護士になるためにはどれほどの勉強時間が必要になるのか、どのような科目をどのように勉強すれば良いのか、筆者の周囲の現実を解説します。
2.司法試験合格までにかかる期間
2023年度の司法試験から、法科大学院在学中に受験資格が認められる、法曹養成コース出身者が受験生となる、試験日程が変更となる、という制度変更がありました。これらの制度変更については、日本最難関資格?司法試験とはの中で触れていますので、ご参照ください。
大学3年法科大学院2年の法曹養成コースでは、大学入学直後から司法試験受験に向けた勉強を開始することが想定されます。法科大学院の2年次7月に受験する場合、勉強期間は、大学で3年間、法科大学院で1年強の合計4年強です。勉強期間4年というのが、司法試験合格までの一つの目安となります。
予備試験を経由して司法試験に合格する場合でも、勉強期間は4年程度が一般的でしょう。筆者が知る限り、大学在学中に司法試験に合格する者の中には、大学の付属高校出身で、周囲が大学受験の勉強をしている高校2年3年から、内部進学を前提に司法試験の勉強を開始している者が多くいます。高校3年から勉強を開始し、大学3年で予備試験合格、大学4年で司法試験に合格した場合、勉強期間は4年間です。
司法試験受験生の全員が大学入学以前から司法試験合格を志しているわけではありません。大学2年3年になり真剣に将来の進路を考え出してから弁護士を志す者も数多くいます。大学3年から勉強を始めた場合、法科大学院既修者コース2年を終了した翌年の司法試験での合格を目指すことが現実的でしょう。この場合の勉強期間も4年間です。
司法試験受験生は、当然のことながら、限界まで勉強するものです。完全に受験勉強に専念できる受験生は週に60時間勉強しています。もっとも、人間の集中力には限界があるので、週50時間程度から先は質を伴った勉強量に違いはないと筆者は考えています。大学生の場合、司法試験に関係のない科目も受講しなければならないので、勉強時間には制限があります。それでも、司法試験に役立つ科目か出席しなくても単位が取りやすい科目を優先的に選ぶことが通常なので、週に40時間程度は司法試験に役立つ勉強に割けるのではないでしょうか。社会人ではない司法試験受験生ならば、年間2,000時間から2,500時間は集中して勉強しているはずです。
以上より、勉強期間は4年程度、勉強時間にすると8,000時間から10,000時間程度というのが、標準的な司法試験合格までの道のりであるように思えます。大学入学後に勉強開始、3年で予備試験、4年で司法試験に合格できた場合でも、3年間、6,000時間は勉強しているはずです。
3.弁護士になるために勉強する必要がある科目
予備試験の試験科目は、短答式(マークシート)試験で、憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、一般教養科目、論文式試験で、憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、選択科目、法律実務基礎科目です(司法試験法5条)。
司法試験の試験科目は、短答式試験で憲法、民法、刑法、論文式試験で、公法系科目(憲法、行政法)、民事系科目(民法、商法、民事訴訟法)、刑事系科目(刑法、刑事訴訟法)、選択科目です(司法試験法3条)。
全ての受験生が勉強しなければならないのは、憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の基本7科目です。民法は出題範囲が広いので、他の科目よりも勉強時間が長くなる傾向にあります。
選択科目は、合格後どのような弁護士になりたいかから選ぶことになります。破産事件を扱いたいならば倒産法を選ぶべきです。知財を扱うならばもちろんのこと、企業法務を扱うにも知的財産法は役立ちます。検察官志望ならば経済法が役立つといわれています。税務に強いという付加価値をつけたいならば租税法です。渉外事件を扱いたいから国際私法という者もいます。国際機関で働きたいならば国際公法、環境問題を扱いたいならば環境法も候補となります。これらの科目を差し置いて労働法が一番人気となるのは、実務で広く使われるからです。企業側弁護士になっても労働者側弁護士になっても使うので、悩んだら労働法を選択すれば間違いはありません。
さらに予備試験では一般教養科目を受験しなければならないのですが、筆者が知る限りでは、受験生は、何もしなくとも一般教養科目を得点源にできる者と、捨て置いても合格は可能なので徹底放置する者に二分され、きちんと勉強をしている者はあまりいないようです。
4.司法試験合格のために有効な勉強法
司法試験合格のためにはアウトプット(実際に答案を書くこと)が重要だといわれています。そのとおりなのですが、アウトプットの弱点は、答案を1通書き上げるために2時間かかってしまうことです。そのため、筆者は、アウトプットを強く意識したインプット(自分の言葉で自分を説得しながら教材を読む)が、時間を最も有効に使える勉強法だと考えています。
記憶しかしないインプットは最悪です。司法試験法3条4項は、「司法試験においては…知識を有するかどうかの判定に偏することなく、法律に関する理論的かつ実践的な理解力、思考力、判断力などの判定に意を用いなければならない。」としており、記憶ばかり知識ばかりの受験生は落とすと明記しています。
同条項の「理論的かつ実践的…」の意味ですが、筆者は、実務で求められる、依頼者の立場に応じて自説を使い分ける能力であると考えています。実際に、近年の司法試験では、科目を問わず、原告被告双方の立場から主張せよ、という出題がされる傾向にあります。
教材として優れているのは基本書です。基本書には、自説だけでなく、他説への反論や他説からの反論に対する再反論も記載されていることが通常です。これを読み込めば、問題の所在から議論状況まで把握することができ、様々な視点から議論ができるようになります。学説の対立状況を把握するための参考資料としては、司法試験受験指導校のテキストも役立つでしょう。
5.まとめ
弁護士になるためには長い勉強期間と膨大な勉強時間が必要になります。努力の果てに弁護士になることができたからには、その分活躍したいと考えることが人情です。C&Rリーガル・エージェンシー社は、2007年から弁護士の就職・転職を支援し続けてきました。各人の適性や希望に応じて弁護士として最も活躍できる環境をご紹介いたしますので、お気軽にご相談ください。
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記事提供ライター
弁護士
大学院で経営学を専攻した後、法科大学院を経て司法試験合格。勤務弁護士、国会議員秘書、インハウスを経て、現在は東京都内で独立開業。一般民事、刑事、労働から知財、M&Aまで幅広い事件の取り扱い経験がある。弁護士会の多重会務者でもある。